巡り行く季節の中心から【連載中】
「冬香ちゃんどうしたの?」
机に腰掛けていた凛ちゃんが、すとっと床に足を着いて訊ねてくる。
まるで何事もなかったかのような平然な振る舞い。
さっきのが幻聴でないことを確信している私には、その姿が酷く愚かなものに見えた。
「習字セット、取りに……」
本当は、知らないフリをしていたかった。
そうすればこの日常が壊れることもなかった。
例えそれが叶わなくても、せめてもう少し持ち堪えることができたかもしれない。
けれどそうであることを望めば望むほど、先程の会話が脳内でしつこいくらいにリフレインされて、現実から目を背けようとする私を叱るのだ。
「そっかー。はい、これでしょ?」
凛ちゃんは私の机の横に掛かっていた赤い習字セットを手にすると、偽りの笑顔を貼り付けたまま駆け寄ってきた。
机に腰掛けていた凛ちゃんが、すとっと床に足を着いて訊ねてくる。
まるで何事もなかったかのような平然な振る舞い。
さっきのが幻聴でないことを確信している私には、その姿が酷く愚かなものに見えた。
「習字セット、取りに……」
本当は、知らないフリをしていたかった。
そうすればこの日常が壊れることもなかった。
例えそれが叶わなくても、せめてもう少し持ち堪えることができたかもしれない。
けれどそうであることを望めば望むほど、先程の会話が脳内でしつこいくらいにリフレインされて、現実から目を背けようとする私を叱るのだ。
「そっかー。はい、これでしょ?」
凛ちゃんは私の机の横に掛かっていた赤い習字セットを手にすると、偽りの笑顔を貼り付けたまま駆け寄ってきた。