巡り行く季節の中心から【連載中】
冬香なら昼休みになっても、決まって席を離れず読書しているはず。
本が好きなくせに図書室に逃げない辺り、それなりに肝が据わっているところは評価してあげるわ。


「冬香いる!?」


教室に駆け込むや否や大声を出せば、驚いて顔を上げた冬香と一瞬目が合って、すぐ逸らされた。
他の男子と話していた秋人くんの横を無言で通り過ぎて、一目散に冬香のもとへ足を進める。


「ねえ冬香。ちょっと訊いても良いかしら?」


これから何が始まるのかと、期待や不安を抱いているクラスメイトのざわめき声をよそに、冬香の席の前まで着いたあたしが訊ねると、視線の先は本に向けたまま「話し掛けないで」と一言。
予想を裏切らない素っ気なさには、いい加減笑いが込み上げてくる。
本当に損な子ね。女は愛嬌って言葉を叩き込んでやりたいくらいだわ。
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