腹黒策士が夢見鳥を籠絡するまでの7日間【番外編② 2021.5.19 UP】
番外編『理学部教員たちの憂鬱』
<三枝宏之助教の場合>
わが東京都大学鳥羽研究室には4名の教員と1名の事務員が所属している。
教員のうち1名は、他の研究所と兼任しているので、実質合計4名だ。
研究費取得額学内ベスト5に入る先生を2名も有しているため、他の研究室から羨望の眼差しで見られることも多く、実際、研究としても珍しいことをやっている。
ただ、個人的には、この研究室の人間関係もおもしろいと思っているのだが。
「おはようございます」
そう言って研究室に入ってきたのは、事務員の鳥羽あげはさん。
先週、この研究室の須藤裕准教授と入籍して『須藤あげは』になったばかりだが、この研究室内では『鳥羽』のままでいくらしい。
彼女自身の事務能力はそこまで高いわけではないようだが、本部や外部への人当りがよく、少しでも分からないことがあれば、きちんと問い合わせをして処理いるので、少し時間はかかるがミスはない。
この研究室に配属されたばかりだった自分にも、色々と優しく教えてくれ、心から信頼できる人間の一人だ。
ただ、彼女はこの研究室のトップ鳥羽教授と、須藤准教授に溺愛され、囲われ続けてきたせいか、世間知らずではある。
さらに、人の好意・悪意を感知する能力は非常に低く、いつか高額なツボを売りつけられていそうな危うさもはらんでいる。
ま、そういうところも、結構お気に入りなんだけどね。
人が苦手な自分がきちんと話せるのは、この研究室にいる人間相手だけ。
特に女性は、鳥羽さんが初めて普通に話せた人だから、なんていうか『特別』な人なんだ。ちなみに、恋愛感情ではない。
絶対に恋愛感情だけは持ってはいけない。
そんなことになれば血の雨を見るのは明白だ……。