腹黒策士が夢見鳥を籠絡するまでの7日間【番外編② 2021.5.19 UP】
「通帳です」
私はあっさりと答える。そして通帳をまたカバンに戻した。
通帳に記入されていた金額は私が納得できるようなものだった。
「通帳?」
「では失礼します」
立ち上がり、ペコリと頭を下げ、カバンを肩にかける。帰ろうとする私の腕を、ぐっと須藤先生は掴んで、
「ちょっ……待って! そんなもん持って、どこに行くの!」
と、もう一度私を仕事用の事務椅子に座らせた。
私は、はぁ、と息を吐く。そして須藤先生をギッと睨むと、
「田中さんのお母さんが入院されて、突然お金が必要になったみたいなんです。でも、田中さん、海外勤務が長くて日本のお金がすぐにないみたいで」
と一息に言う。
なのにそれに返事することなく、須藤先生は不愉快そうに眉を寄せた。