腹黒策士が夢見鳥を籠絡するまでの7日間【番外編② 2021.5.19 UP】
実験室の中に入ると、はぁ、と椅子に腰を下ろす。
……まぁ、鳥羽さんの結婚相手はあれだけ粘着質な須藤先生だもんな。
自分が学生だった頃、自分の先輩が『鳥羽さんを紹介してほしい』と軽いノリで言ったときの須藤先生の冷たい目に、その先輩だけでなく、後ろにいた自分も凍り付いた。
それは、今でも忘れられない。
須藤先生はあれから……いや、あれより、きっともっと前から彼女のことだけが好きだった。
ただ、彼女の方は全くその気持ちに気付いていないようで、あの蜘蛛……いや、須藤先生が多少なりとも哀れにも思えていたのも事実だ。
だからこそ、その思いが実ったのはよかったとは思ったのだけど……。
ただ彼女は先週から、かなり艶っぽくなってきている。
女性らしさと言うか、今までも女性だったんだけど、時々妙にドキリとさせられることがある。
もし、彼女のことが『女性』として好きになってしまうなんてことがあれば……。
そう思い立って、身体が震えた。
ふと化学薬品棚に目をやると、中に劇薬たちが並んでいるのが目に入る。
「……あの先生なら人一人くらい跡形もなく消しそうだな……」
思わずそうつぶやいて、また震えた。
そしてため息を一つ。
人間関係でこうやって憂鬱な気分になるのは初めてだが、今まで全くそういう事がなかった反動か、こういうことも悪いものではないと思うのだから、きっと自分は昔より人として成長しているのだろう。
こういうところもこの研究室のおもしろさだ。
そう思うと、クスリと小さな笑い声がこぼれた。