腹黒策士が夢見鳥を籠絡するまでの7日間【番外編② 2021.5.19 UP】
番外編2『二人のケンカとそれから』
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「私、妻をストライキします」
その日、昼の学食で、いつものなで肩を精一杯いからせながら、あげはちゃんは言い放った。
私はその言葉を聞いて、ニヤリとする口元を隠しもしないまま、
「あら、楽しそうな話しね」
と微笑む。
「芦屋先生、真剣に聞いてくださいよ!」
「聞いてるわよー」
あげはちゃんはぷりぷり怒っているが、それもかわいくて迫力はまるでないということに本人は気づいていない。
私は笑いだしそうになるのを極力こらえて、
「で? 具体的にどうするわけ」
と小さな声で聞いてみた。
「今日は家に帰りません」
「実家でも泊まるの?」
「実家に帰ったら父に心配かけるし、駅前のビジネスホテルでも」
「なら、うちにくればいいわよ」
そう言うと、あげはちゃんは心底驚いた顔をして、首をかしげる。
「うち? って?」
「うん、うち」
「……えっと」
突然の提案に少し戸惑った顔をしたあげはちゃんを、網から逃さないように続けた。
「うちの両親、ちょうど海外旅行に行ってるの」
「はい」
「部屋も余ってるし、ちょうどいいでしょ」
「……でもなんだか申し訳ないです」
申し訳ないだなんて、来てくれる方が嬉しいのに。
そう言いたいのを我慢して、できるだけ遠慮しないような提案をしてみる。これを逃す手はないし、逃す気もない。
「じゃあ、泊める代わりに夕飯作ってよ。私と兄たちの分。兄たち、すっごい食べるから困ってるの。今日は私が食事当番でね、作ってくれるなら嬉しい」
「それなら……」
表情が柔らかくなったあげはちゃんを見てほっとする。
実際、ビジネスホテルとはいえ、あげはちゃんを一人、変な場所に泊めるのは心配だったし、ちょうどいい。そして、『彼』にもし居場所を聞かれても、隠し通そうとは決意していた。