狼男 無限自殺 編
第2話
“よぉゴミ。これ捨てといてくれよ”
“おいゴミ!
邪魔なんだよさっさとゴミ箱行け!”
“キャハハ!”
“お前いつまで学校来んのゴミ?”
いつものように丸められたティッシュや紙くずをぶつけられても、
いつものように机や椅子を蹴られても、
いつものように罵声と嘲笑を浴びせられても、
“逃げる”と決めたからほんの・・ほんの少しだけ気持ちはいつもより落ち着いていた。
でもだからと言って、反抗的な目線を向けられるわけでもなく、
ましてや反撃することなんてできるはずもなく、
今日もずっと俯いて、
休み時間が終わるのを待つ。
“じゃあこの問題は・・
【五味】君、分かるか?”
授業中は授業中で[先生にバレずに仕掛けられるか]というゲームの標的にされる。
“え!?おい大丈夫か五味?”
黒板へと向かう僕に足を掛けてくる。
引っ掛けられる瞬間は教卓の位置からは死角になる。
大丈夫ですと答えた後、必死に黒板に描かれる計算式と向き合う。
“うん正解。よく出来ました”
黒板から席へと戻った後、
自分のノートにいつの間にか“死ね”と書かれていて、
一緒に飴玉が入っていたと思われるゴミも置かれていた。
でも“逃げる”と決めたから、
いつもよりほんの・・ほんの少しだけこの頭は他事で気を紛らわせられる。
“なにか事件に巻き込まれた”と思われると捜索願いを出されるので、
ちゃんと書き置きはしておこう。
[探さないでください]とちゃんと家族を心配させないようにメッセージを残そう。
ATMでのお金の降ろし方については昨日のうちに調べた。
家の金庫の番号は知っている。
たしか一緒に暗証番号がメモされたノートも入っている。
自分の名義で作られているキャッシュカードがあるはずだから、それだけ持ち出してこよう。
中学生が夜に出歩いたり電車に乗ると補導されてしまう。
だからあと1日・・この金曜日をなんとか生き抜いて、
明日の朝・・駅で彼女と待ち合わせして、
この地獄から抜け出す。
後ろの席からシャーペンの芯が刺さる痛みを感じても、
今日だけはほんの・・
ほんの少しだけ我慢できた。
きっと彼女も今頃・・1階下の校舎で同じ苦しみに耐えている。
男の大胆さと女の陰湿さの違いはあるかもしれないけど、“苦しみ”に変わりはない。
一緒にどこか田舎へ逃げよう・・
誰も僕達の事を知らない・・・・
今居る地獄から抜け堕せられる田園風景が広がるどこか・・・どこかへ・・・。