年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
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お義父様の誕生パーティー当日。

私は予定通り和装で行くことにした。束ね熨斗に花模様をあしらった橙色の訪問着、髪も落ち着いた雰囲気にセットしてもらった。鏡の前で何度もチェックしたけれど、これなら幸景さんと並んで夫婦に見える……と思う。

会場は都内にある老舗ホテル。立食パーティー形式で、ざっと四百名ほどの招待客が集まっているそうだ。
親類はもちろん、会社役員とそのパートナー、取引先や大手株主、それからお義父様と親交のある方。会社の各部署からも代表で数名が出席していて、若い社員の人たちが運営のお手伝いにも来ていた。

お義父様にお祝いを述べたあと、私は幸景さんと一緒に関係者への挨拶に回ることになった。
結婚式からそう日が経っていないこともあって、皆、私の顔を覚えてくださっていた。
予習してきた甲斐もあって、挨拶や歓談もそつなくこなせた……と思う。

「少し休もうか」

そう幸景さんが声をかけてくれたのは、パーティーが始まってから一時間が経った頃だった。
挨拶回りに一生懸命で気づいていなかったけれど、確かに少し疲れた気がする。

「じゃあ、お化粧直しにいってきてもいいですか」

「どうぞ。会場を出て右奥だよ。気をつけて行っておいで」

着物の襟元が少し緩んできてしまったので、身支度を整え直してこようとパウダールームへ行くことにした。

ひとりきりになったパウダールームで、私はホッと息を吐く。結婚前から覚悟していたことだけど、やっぱり社長夫人という立場は気を張る。粗相がないよう、幸景さんの顔に泥を塗らないよう、立ち振る舞いに気をつけるだけでクタクタだ。

パーティーはあと一時間半。後半戦も頑張ろうと思って気合を入れなおし、身支度を整えてパウダールームを出る。

すると、会場へ戻る途中の廊下の片隅で、ホテルスタッフとが数人のスーツの人たちが集まっているのが見えた。今日の運営に携わっている社員の人たちのようだ。
どうやら招待客に渡すお土産に何かトラブルがあったらしく、慌てた様子で相談している。

大丈夫かな、と思いながらも私が出来ることもないのでその場を通り過ぎようとしたとき。

「あ、ちょっと、きみ!」

いきなりひとりの年若い男性社員に声をかけられて、私は「え?」と思いながら振り返った。

「きみ、秘書課の子? 悪いんだけど会場で竹本課長呼んできてくれないかな。携帯繋がんなくて」

「え……えっと、私は……」

あまりに驚きすぎて言葉を失った。私、今、社員に間違えられてる?

ポカンとしたまま立ち尽くしていると、こちらに気づいた少し年上と思われる社員の人が、顔色を変えて私に声をかけた男性社員の頭をはたいた。

「馬鹿!! お前……っ、こちらは紫野社長の奥様だよ!」
「へ? ……えぇぇっ!? し、失礼しました!!」

ふたりが揃って勢いよく頭を下げる。そのせいで他の人たちもこちらに注目し始め、私はますます動揺してしまった。
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