年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
――このままではいけない。
そう決意を新たにしたのは、パーティーの翌週だった。
結局、あれからも私たちの生活は変わっていない。
幸景さんは私の目覚ましを止めて朝食を作り、過保護に私を甘やかしている。
今日も派遣されてきた家事のプロたちが家を綺麗にして、ご飯を作り、私の出る幕はない。
「こんなんじゃ駄目!」
叫んで、私はリビングのソファーから立ち上がった。
そして外出の支度を整え、玄関を出る。
幸景さんはきっと、子供のように頼りない私のことが可愛くて仕方ないのだということは薄々わかっている。
それはそれで幸せなことだけれど、でも不安も覚える。
だって私はいつまでも若いままじゃいられない。十年後、二十年後も幸景さんは未熟な方が可愛いと思ってくれる?
今後母親にだってなるのに、いつまでも子供っぽいままじゃいられない。
大人の女性として、妻として、母親として。もっと頼りがいがあって洗練された女にならなくてはと思う。そのためにも今から努力しなくては。
具体的にどうするべきかはまだわからないけど、とりあえず見た目から変えてみようと思った。
まずは美容院に行って、ストレートのセミロングをミディアムボブにしてパーマをかけた。前髪も作らずおでこを出すようにする。
……そのスタイルが丸顔の私にはちっとも似合わないと気づいたのは、すべてが終わって鏡を見たときだったけど、後悔はしない。少なくとも以前よりは大人っぽく見える……はず。
それからメイクも変えようとコスメショップにも行った。美容部員さんに相談しながら、今の垢抜けないイメージを変えてもらう。
おかげで新しくした髪型にさっきよりも顔が馴染んだ気がした。思いきって眉の形を変えたのがよかったのかも。
「うん。〝奥様〟って感じがする」
コスメカウンターの鏡に映る新しい自分を見て、満足げに独り言ちた。
けれど、外見が変わったとしても問題は中身だ。どうやって頼もしく洗練された大人の女になるべきか考えていたとき、私の目にあるものが飛び込んできた。
カウンターの上にあったカタログスタンド。そこに差し込まれていたパンフレットをひとつ手に取る。
「これって……」
パンフレットの表紙に書かれているのは〝女性のための講座・セミナー〟という文字。
中を開いて見ると、会話術やコミュニケーション講座、婚活のための家事の基礎、中には『なりたい自分になる、オーラ洗練方法』なんてものまで紹介されていた。
「これ、一部いただいてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
私は興奮気味にそれをバッグにしまい、コスメショップを後にした。
これだ。自分でどうすればいいのかわからないのならば、外へ学びにいけばいいのだ。
家へ帰るためのハイヤーに乗り込み、改めてパンフレットを開く。数々の講座が、私に手を差し伸べてくれる助け舟に思えた。
帰ったらさっそく申し込もうと逸る胸を押さえて、私は自分が理想の女性になる姿を夢のように思い描いた。