年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
 
「……美容院へ行ったんだね。雰囲気が随分違うから驚いた。よく似合ってるよ」

午後八時。
帰宅した幸景さんは、変身した私を見てそう言った。
穏やかに微笑んではいるけれど、内心困惑しているような気がする。

多分、彼としては以前の年相応に見えるスタイルの方が好みなんだろうなと思いながら、「幸景さんはこういうの嫌い?」と一応尋ねてみた。

「どうして? 嫌いじゃないよ。大人っぽくなって綺麗だよ」

『大人っぽくなった』と言われたのは嬉しいけれど、口ではそう言いつつ幸景さんは私の頭を撫でてくる。なんだか一生懸命大人の真似をした子供を、微笑ましく思いながら宥めてるみたいだ。

やっぱり見かけを変えただけじゃ彼の評価は変わらないのだなと思い、改めて中身も変わることを決意する。

「幸景さん。私、明日から――」

明日から色々な講座やセミナーに通ってみようと思うんです、と言いかけてやめた。
なんとなく、言いづらい。

もし正直に報告したら、きっと幸景さんは『無理しないで、今のままの璃音でいいんだよ』と返してくる気がする。
なんだかそれは嫌だった。こうやってあがいていること自体、子供っぽいと思われてしまいそうで。

「明日? どうかしたの?」

言いかけて口を噤んだ私を不思議そうに見つめる幸景さんに、私は口をモゴモゴさせてから開きなおした。

「明日……ちょっとお出掛けしてきますね。ショッピングでもしようかなって」

適当な言い訳を口にすると、幸景さんは特に不審に思う様子もなく「いいよ。いってらっしゃい。混んでいる電車は危ないから、なるべくハイヤーを使うんだよ」と、いつものように気遣ってくれた。

なんだか彼を欺いているようで少し胸が痛んだけれど、これも結局はふたりの明るい未来のためと前向きに考えることにする。

「さあ、晩ご飯にしようか」

上着を脱いでネクタイを外した幸景さんが、私の背を押して食卓へ促す。
今日もテーブルにはプロが作った完璧な晩ご飯。
それはとても美味しいけれど、いつかは私の作った手料理を並べたいと、柔らかな鴨肉のローストを口に運びながら思った。
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