年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
翌週も私は片っ端から講座に申し込んでは通っていた。もはや何が適正なのかもわからず、迷走している気もする。けれど、意地になってしまって止めるわけにはいかなかった。
そんなある日のこと。
「随分と熱心に通われていますね」
『輝く女性の占星術講座』を受講し終えて教室を出たところで、ひとりの男性に声をかけられた。
スーツ姿の二十代半ばくらいの男の人だ。清潔感があって、人当たりのよさそうな笑みと態度で、悪い感じはしない。
けれど、いきなり声をかけられたことに警戒していると、その男性は「失礼しました。私、こういうものです」と名刺を差し出してきた。
「セミナー企画・運営、株式会社サーチアビリティ……」
「池戸と申します。今日のセミナーの運営はうちの会社サーチアビリティが手掛けておりまして。ご参加どうもありがとうございました」
「はあ」
よく見たら、名詞と同じ身分の書かれたスタッフパスをつけていた。しかし、セミナーの運営会社の人がどうして声をかけてきたのだろう。
「失礼ですが、紫野璃音様でいらっしゃいますよね。先月からうちの開催しているセミナーの幾つかで、お姿を拝見したものですから」
私は気づいていなかったけれど、どうやら参加した講座の幾つかにスタッフとして池戸さんもいたようだ。
そういえば講座のパンフレットに『株式会社サーチアビリティ』の記名があったのを見た気がする。
「様々な内容のセミナーに参加されていて、大変に勤勉な方だなと思っていたんですよ。お気に召した講習はございましたか?」
「え……。えぇと、あの」
池戸さんに聞かれて、答えに窮してしまう。
だって、なかなか満足できる講座がなかったうえ、最近ではやけくそで手当たり次第に参加していたんだもん。
なんと言えばいいのかわからず言葉を探していると、池戸さんは笑顔のまま少し口を噤んでから、納得したように「そうですか」と独り言ちた。
「実は、もしかしたらご満足いただけたものがないのではと懸念していたのですよ。よろしかったら紫野様のお求めになる講座をご紹介しますので、少しお話いたしませんか」
それは、迷走中の私にとって渡りに船だった。
セミナー会社の人ならば、私がどんな講座を受けるのが正しいかわかるかもしれない。
「ぜひ、よろしくお願いします」
深々と頭を下げると、池戸さんは少し驚いたように目を見開いてから「では、お話を伺いますので近くのカフェにでも行きましょうか」と案内してくれた。