年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
「――なるほど。ようは〝淑女〟になるための講座をとお探しというわけですね」
「そ、それ! そうです!」
カフェのテーブルに着き今までの経緯を話した私は、池戸さんがこちらの要望を端的にまとめたのを聞いて、何度も頷いた。さすがプロだ、客の需要を理解するのが早い。
「そうすると……」と呟いて池戸さんは鞄からフライヤーを取り出すと、ドリンクの邪魔にならないようテーブルに並べた。
「こちら、来月の開催になるんですが……ちょっと趣向を変えてこんなのはいかがでしょう」
そう言って彼が私に見せてきたのは、『白百合蝶子さんと過ごすティータイム』と銘打ち表紙に百合の花が金箔押しされた、今までのセミナーのパンフレットとは雰囲気のまるで違うフライヤーだった。
「セミナーではなく茶話会というか、談話形式の相談会みたいな感じなんですけど。アッパークラスのご夫人を対象に、セレブ界で有名な白百合さんを囲んで悩みを相談しあったり、お喋りしようというものなんです」
「相談会……!」
そんな催しがあったのかと、私は感激して目を瞠った。今までのどの講座よりもしっくりくる気がする。
池戸さんには私がしのや百貨店の社長夫人だということは言っていないけれど、夫のパートナーとして社交界に出る立場であることは伝えた。おそらくそこから、アッパークラス対象の相談会を紹介してくれたのだろう。
「紫野さんのお話をお伺いする限り、家事や教養の面ではうちの開催するセミナーではもう習うことがないと思うんですよ。うちは基本的に初心者を対象にしたセミナーが多いですし、紫野さんはもう十分その辺りは身につけられているかと。けれど紫野さんは自分が未熟で、パートナー様に認められていない気がして不安なんですよね? でしたら手当たり次第に何かを習うよりも、自分の境遇と近い先輩方にお話を聞いてもらってアドバイスしてもらう方が良策かと」
池戸さんのものすごく的確な指摘に、私はフライヤーを握りしめて目を輝かせた。
そうだ、なんで気づかなかったんだろう。誰かに相談すればよかったんだ。しかも、似たような境遇の人が相談に乗ってくれるなんて、こんな素晴らしい催しがあったとは!
「ただ……、こちら少し参加費が高いのと、あくまでアッパークラスの既婚女性を対象にしたものなのでプロフィールによる参加資格の選定があります」