年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
……なんだか、いつもより集中して楽しめなかった気がする。
二時間ほどのコンサート鑑賞を終えてホールを出た私は、未だに自分から後ろめたさが消えていないことに気づいた。
せっかくの幸景さんとのデートなのに、気もそぞろだったことが申し訳なくて密かに罪悪感まで抱えてしまう。
コンサート会場のロビーはホールから出たお客さんでごった返していた。
クロークに預けていた荷物を受けとり外に出ようとしたとき、幸景さんのスマホが鳴った。
どうやら会社からのようで「ちょっとごめん」と電話に出た幸景さんは、人混みを避けて通路の奥へと移動した。
「先に外へ出ていますね」
リムジンが迎えに来てくれているはずだけど、駐車場へはホールの玄関口から裏手へ回らなくてはならない。
私は混んでいるロビーで待つより、外の風にあたってこようと思って先に玄関口を出た。
駅から近いコンサートホールの正面は、大きな遊歩道になっている。
コンサート帰りのお客さんだけでなく、駅からどこかへ向かう人たちも多く、遊歩道は夜にも拘らず賑わっていた。
そんな行き交う人たちを眺めながら近くの街路樹を背にして立っていると――。
「あれ、こんばんは」
ふいに、道を歩いていた男性が声をかけてきた。
「あ……池戸さん」
それは先日、私に茶話会を紹介してくれた池戸さんだった。スーツ姿のところを見ると今日もお仕事だったのだろうか。
「今日はおめかしされてて一段と綺麗ですね。お出かけですか?」
今夜のコンサート鑑賞のため少しドレスアップした私を見て、池戸さんは笑顔でそう言った。
「ありがとうございます。今、ここのホールでコンサートを聴いてきたんです」
背後の会場を振り返って言うと、池戸さんは会場前に設置されている大きな看板を見て「ああ、イジー・ヴラーベルの来日公演ですか」と、目を大きくした。
「凄いですね、大人気の指揮者でチケットが早々取れないって聞きましたよ」
「そうなんですか?」
イジー・ヴラーベル氏が素晴らしい指揮者であることは知っていたけれど、そんなに入手困難なチケットだとは知らなかった。幸景さん、どうやって二階中央の最前列なんて良席を手に入れたんだろう。
「知らないで聴いていたんですか? 贅沢だなあ」
そう言ってはははっと笑った池戸さんが、「あ、そうだ」とふと真面目な顔になった。
「この間お勧めした『白百合蝶子さんと過ごすティータイム』なんですけど、私その日に出張が入ったので担当が変わりまして。申し訳ございません」
池戸さんがいてくれた方が心強いけれど、そんな甘えたことも言っていられない。
「大丈夫ですよ」と言おうとして口を開きかけたときだった。
「きゃっ!?」