年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
「そういえばご存知? 最近の若い子の間で『パパ活』なんてものが流行ってるんですって。若さと無邪気さを売りにして経済力のある男性とデートをしたり売春行為をするそうよ。まったく恥も外聞もないのね。同じ女性として情けないわ。けど、もっと情けないのはそれを買う男性だわ。知性もプライドもない女性を『若いから』『可愛いから』ってペットみたいにお金で買うのだから。まあいっときの快楽、遊びでしかないのでしょうけど。……でも、うっかりそういう女性と結婚してしまう見る目のない男性もいるのでしょうね。どんなにご立派な社会的地位があっても大切な伴侶選びを失敗しては、その人の人間性も大概ということでしょうね」
その話題が明らかに私を揶揄しているということはすぐわかった。
売春行為をするような女性と同列に語られることにも憤りを感じたけれど、遠回しに幸景さんを侮辱したことに、私は激しい怒りを覚える。
言い返してやりたいけれど、直接馬鹿にされたわけじゃない。『あなたのことを言ったわけじゃないのに、何故あなたが怒るの? 心当たりがあるのかしら?』などと返されれば、相手の思うつぼだ。
唇を噛みしめてこらえていると、白百合さんは私の方に笑顔を向けて口を開いた。
「あら、璃音さん、素敵なネックレスね。とてもお高そう」
「え? あ……これは……」
急に話題を振られて、私は焦って自分の胸もとに手をあてる。
今日つけてきたノンクラックのペリドットをメレダイヤで囲んだネックレスは、先週、幸景さんからもらったばかりの物だ。
彼が理性を失ったように私を抱いた翌日、『昨夜は無理をさせて悪かった』とお詫びにこのネックレスを贈ってくれた。気遣ってくれたその気持ちは嬉しかったけれど、結局幸景さんの本心はわからないままだ。
ネックレスをもらってから初めてのお出掛けだったので今日は身につけてきたのだけど、白百合さんの目に留まるのならば着けてこなければよかったと後悔した。
「ご主人にもらったの?」
「……はい」
「あら、まあ。やっぱりねえ。うふふ、私の知り合いの方もよく贈るのよ。ペットに新しい首輪を」
あまりに酷い侮辱に頭に血が上り、思わず椅子から立ち上がってしまった。
ガタンと音をたてて立った私に視線が集まり、テラスは緊張感を孕んだ静けさに染まる。
「あら、どうされたの?」
人に向かって無礼な言葉を吐いておきながら、白百合さんは涼しい顔でとぼけた台詞を口にする。
私は消え入りそうな声で「……失礼します」と言うとおざなりに一礼して、他の参加者たちの驚きや哀れみの視線を浴びながらその場を去った。
本当は言い返してやりたかったけれど、感情を抑えられる自信がなかった。怒鳴ってしまうかもしれない、泣いてしまうかもしれない。そんな醜態をさらしたら、妻として幸景さんの顔に泥を塗ることになる。
ましてやそれが社交界で噂になったりしたら最悪だ。『しのやの若奥様は茶話会で泣き喚いた』なんてみっともない噂、絶対に流すわけにはいかない。
私は足早にテラスから去ると、ホテルのパウダールームへと駆けこんだ。
個室に飛び込んで鍵をかけ、我慢していた涙を声を押し殺して溢れさせる。
悔しい、悔しい……! どうしてあんなこと言われなくちゃいけないの!?
何も悪いことをしていないのに、馬鹿にされる意味がわからない。
今日の茶話会に大きな期待を寄せていた分ショックは大きく、私は悔しさと混乱でしばらくひとりで泣き続けた。
その話題が明らかに私を揶揄しているということはすぐわかった。
売春行為をするような女性と同列に語られることにも憤りを感じたけれど、遠回しに幸景さんを侮辱したことに、私は激しい怒りを覚える。
言い返してやりたいけれど、直接馬鹿にされたわけじゃない。『あなたのことを言ったわけじゃないのに、何故あなたが怒るの? 心当たりがあるのかしら?』などと返されれば、相手の思うつぼだ。
唇を噛みしめてこらえていると、白百合さんは私の方に笑顔を向けて口を開いた。
「あら、璃音さん、素敵なネックレスね。とてもお高そう」
「え? あ……これは……」
急に話題を振られて、私は焦って自分の胸もとに手をあてる。
今日つけてきたノンクラックのペリドットをメレダイヤで囲んだネックレスは、先週、幸景さんからもらったばかりの物だ。
彼が理性を失ったように私を抱いた翌日、『昨夜は無理をさせて悪かった』とお詫びにこのネックレスを贈ってくれた。気遣ってくれたその気持ちは嬉しかったけれど、結局幸景さんの本心はわからないままだ。
ネックレスをもらってから初めてのお出掛けだったので今日は身につけてきたのだけど、白百合さんの目に留まるのならば着けてこなければよかったと後悔した。
「ご主人にもらったの?」
「……はい」
「あら、まあ。やっぱりねえ。うふふ、私の知り合いの方もよく贈るのよ。ペットに新しい首輪を」
あまりに酷い侮辱に頭に血が上り、思わず椅子から立ち上がってしまった。
ガタンと音をたてて立った私に視線が集まり、テラスは緊張感を孕んだ静けさに染まる。
「あら、どうされたの?」
人に向かって無礼な言葉を吐いておきながら、白百合さんは涼しい顔でとぼけた台詞を口にする。
私は消え入りそうな声で「……失礼します」と言うとおざなりに一礼して、他の参加者たちの驚きや哀れみの視線を浴びながらその場を去った。
本当は言い返してやりたかったけれど、感情を抑えられる自信がなかった。怒鳴ってしまうかもしれない、泣いてしまうかもしれない。そんな醜態をさらしたら、妻として幸景さんの顔に泥を塗ることになる。
ましてやそれが社交界で噂になったりしたら最悪だ。『しのやの若奥様は茶話会で泣き喚いた』なんてみっともない噂、絶対に流すわけにはいかない。
私は足早にテラスから去ると、ホテルのパウダールームへと駆けこんだ。
個室に飛び込んで鍵をかけ、我慢していた涙を声を押し殺して溢れさせる。
悔しい、悔しい……! どうしてあんなこと言われなくちゃいけないの!?
何も悪いことをしていないのに、馬鹿にされる意味がわからない。
今日の茶話会に大きな期待を寄せていた分ショックは大きく、私は悔しさと混乱でしばらくひとりで泣き続けた。