年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
 
――どうして初対面の白百合蝶子さんが私を敵視し、あんなに攻撃的な言葉を投げつけたのか。
それがわかったのは三日後の夕方のことだった。

「大変申し訳ございません!」

前の日の晩、出張から戻ってきたという池戸さんから電話があり、茶話会での顛末を知った彼は電話越しにひたすら謝り、直接会って改めて謝罪と説明がしたいと言った。

正直、一秒でも早く忘れたい出来事なので謝罪はどうでもよかったけれど、どうして白百合さんが私を攻撃してきたのかは知りたくて、翌日に前回話したカフェでまた会うことを約束した。

そして今日。池戸さんは私の顔を見るなり席から飛び跳ねるように立ち上がり、深々と頭を下げたのだった。

店内にいた他のお客さんに注目されるのが嫌で、私は小声で「池戸さんに……運営会社さんに怒ってはいませんから。とりあえず座ってください」と促した。

申し訳なさそうに中腰のまま席に座り直した池戸さんはもう一度お詫びを口にしてから、ようやくことの真相を教えてくれた。

――説明を聞いて、私はなんてくだらないと心底呆れる。
ようは、白百合さんの盛大な妬みだったのだ。

今回の主催者である白百合蝶子さんはセレブタレントとして有名な人で、テレビや雑誌に出たり、この間のように茶話会をたびたび開催している。

そんな彼女がなぜ『セレブタレント』という地位を築いたかというと、十年前に百貨店『日本福福』グループの社長と結婚したからだ。つまり、私と同じ百貨店グループの社長夫人という立場である。

けれどやっかいなことに、『日本福福』はそれなりに名の通った百貨店ではあるものの『しのや』の知名度と店舗数には大きく及ばない。もちろんそれは会社そのものの経営規模や資産にも比例する。

……こういう表現は嫌いだけど池戸さんの言葉を借りるなら、白百合さんにとって私は〝格上のライバル〟だったらしい。
しかも私が平凡な家柄の出身だったことも、大学卒業と同時に結婚したことも、良家の出のわりに婚活に苦労した彼女は非常に気に食わなかったようだ。

もし池戸さんが茶話会の参加者の選抜をしていたなら、私を参加させていなかったそうな。さすがに主催者と同系列、しかも格上の会社の社長夫人を相談者の立場で参加させたら、白百合さんのメンツが潰れてしまうからとのことだ。

けれど悪い偶然が重なり、今回の茶話会は池戸さんが担当を外れ経験の浅い社員が担当することになってしまった。
セレブの事情に精通していないその社員は、なんの疑問も抱かず私を参加させてしまい……案の定、白百合さんの不興を盛大に買ったというわけである。

「そんな事情なら、私も最初から『しのや』グループの社長の妻だと池戸さんにお伝えしておけばよかったですね」

今さらではあるけれど、そんな後悔が浮かぶ。初めから身分を明かせばあんな悲劇は起きなかったのかも、と。

「いえ、大切な個人情報ですから紫野さんのご判断は間違っていません。本当に私どもの不手際です。参加者の確認だけでも私がするべきでした。本当に申し訳ございません」

本日もう数えきれないほど謝罪を口にした池戸さんが、さらに記録を重ねる。
スタッフに配慮がなかったのは確かだけれど、そこを糾弾するつもりはない。私が怒りを抱いているのは、そんなくだらない妬みで私をいびり幸景さんのことまで侮辱した白百合さんだけだ。
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