年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
幸景さんは大学卒業後からしのやグループの執行役と取締役を兼任し、彼が経営に携わってからグループ全体の業績は大きく右肩上がりになっている。若くして経営者の才能を遺憾なく発揮する辣腕の持ち主である。
日本有数の大企業の若社長、しかも有能ともなれば結婚相手など引く手数多のようだけれど、不思議なことに今年三十三歳になる彼は未だ独身だ。それどころか郷太郎氏によると、結婚相手候補になるような相手も皆無だという。本人曰く結婚に興味がないのだとか。
けれど明治から続く一族経営のしのやグループ社長が跡取りを作らないわけにもいかず、息子の将来を心配した郷太郎氏はお見合いの席を設けることに決め、白羽の矢があたったのが私……という成り行きなのだ。
しのやグループの御曹司ならもっと上流階級の娘さんの方が相応しそうなものだけど、幸景さんは普段から社交界でそういった女性と面識はあるそうな。けれど全く恋愛に発展しないところを見るに、今まで彼の周りにあまりいなかったタイプの女性の方がいいのではないかと、郷太郎氏は考えたのだった。
……確かに私は上流階級でもお嬢様でもないけど。でもなんだか奇をてらって選ばれたみたいで、どうもスッキリしない。
そんな親同士の事情で決まったような今日のお見合い。おそらく両家ともうまくいくとは思っていないだろう。うちの父だって形だけのものと言っていたし、郷太郎氏だって息子に結婚を意識させるのが目的で、本気でただの和菓子屋の娘を嫁にしようなんて考えてないはず。そして、それはもちろん私も。
だって私はまだ社会にも出たことのない子供だし、そもそも大企業の御曹司が相手だなんて、済む世界が違いすぎるし。それに……十二歳も年上は、申し訳ないけれどやっぱりおじさんとしか思えない。お見合い写真を見た限りは清潔感もあってあまり老けている印象はなかったけれど、実物もそうだとは限らないし。
だから貴重な日曜日を潰してまでしなくちゃならないこの日のお見合いが、私は憂鬱で仕方なかったんだけれど……それは、幸景さんの姿を見た瞬間に変わった。
父の後について料亭の個室に入ったとき、幸景さんはすでに着いていて、濡縁に立ち庭園の銀杏を眺めていた。
グレーのスリーピーススーツに包まれたスラリとした立ち姿は涼やかで、金色の日差しに縁どられた横顔は思わず見とれてしまうくらい美しくて、目を奪われた。
特に、秋の情緒的な景色を映す艶のある瞳がとても印象的だった。
「はじめまして、紫野幸景です」
お互い席に向き合ってそう挨拶した幸景さんは、とても穏やかで人当たりのいい笑みを浮かべた。低いけれどふわりとした響きの声が、心地よく耳に響く。
その笑顔も声もあまりに優しいから、私は初対面だというのに無意識に(この人の側にもっといたい)などと思ってしまった。
幸景さんは、会う前に抱いていた私の想像と全然違った。お見合い写真と違って本物はきっともっとおじさんくさいのだろうという予想とは百八十度真逆で、実物は写真以上に爽やかで柔らかな印象だった。
大人の男性らしい少し面長な輪郭に整った配置のパーツ。切れ長の目も薄い唇もクールな色香を感じるけれど、微笑むと途端に温和な印象になる。
背が高く肩幅も広く、細身ながらも男性らしい体格をしているのに、肌や髪は綺麗で嫌な男くささを感じさせない。所作もとても品があって、特に彼の長くて少し骨ばった指がしなやかに湯呑を持つ様に、私は何度も釘付けになってしまった。
……こんな綺麗な男の人がいるんだ。
目から鱗が落ちるような気持ちで、そんなことを何度も考えた。
日本有数の大企業の若社長、しかも有能ともなれば結婚相手など引く手数多のようだけれど、不思議なことに今年三十三歳になる彼は未だ独身だ。それどころか郷太郎氏によると、結婚相手候補になるような相手も皆無だという。本人曰く結婚に興味がないのだとか。
けれど明治から続く一族経営のしのやグループ社長が跡取りを作らないわけにもいかず、息子の将来を心配した郷太郎氏はお見合いの席を設けることに決め、白羽の矢があたったのが私……という成り行きなのだ。
しのやグループの御曹司ならもっと上流階級の娘さんの方が相応しそうなものだけど、幸景さんは普段から社交界でそういった女性と面識はあるそうな。けれど全く恋愛に発展しないところを見るに、今まで彼の周りにあまりいなかったタイプの女性の方がいいのではないかと、郷太郎氏は考えたのだった。
……確かに私は上流階級でもお嬢様でもないけど。でもなんだか奇をてらって選ばれたみたいで、どうもスッキリしない。
そんな親同士の事情で決まったような今日のお見合い。おそらく両家ともうまくいくとは思っていないだろう。うちの父だって形だけのものと言っていたし、郷太郎氏だって息子に結婚を意識させるのが目的で、本気でただの和菓子屋の娘を嫁にしようなんて考えてないはず。そして、それはもちろん私も。
だって私はまだ社会にも出たことのない子供だし、そもそも大企業の御曹司が相手だなんて、済む世界が違いすぎるし。それに……十二歳も年上は、申し訳ないけれどやっぱりおじさんとしか思えない。お見合い写真を見た限りは清潔感もあってあまり老けている印象はなかったけれど、実物もそうだとは限らないし。
だから貴重な日曜日を潰してまでしなくちゃならないこの日のお見合いが、私は憂鬱で仕方なかったんだけれど……それは、幸景さんの姿を見た瞬間に変わった。
父の後について料亭の個室に入ったとき、幸景さんはすでに着いていて、濡縁に立ち庭園の銀杏を眺めていた。
グレーのスリーピーススーツに包まれたスラリとした立ち姿は涼やかで、金色の日差しに縁どられた横顔は思わず見とれてしまうくらい美しくて、目を奪われた。
特に、秋の情緒的な景色を映す艶のある瞳がとても印象的だった。
「はじめまして、紫野幸景です」
お互い席に向き合ってそう挨拶した幸景さんは、とても穏やかで人当たりのいい笑みを浮かべた。低いけれどふわりとした響きの声が、心地よく耳に響く。
その笑顔も声もあまりに優しいから、私は初対面だというのに無意識に(この人の側にもっといたい)などと思ってしまった。
幸景さんは、会う前に抱いていた私の想像と全然違った。お見合い写真と違って本物はきっともっとおじさんくさいのだろうという予想とは百八十度真逆で、実物は写真以上に爽やかで柔らかな印象だった。
大人の男性らしい少し面長な輪郭に整った配置のパーツ。切れ長の目も薄い唇もクールな色香を感じるけれど、微笑むと途端に温和な印象になる。
背が高く肩幅も広く、細身ながらも男性らしい体格をしているのに、肌や髪は綺麗で嫌な男くささを感じさせない。所作もとても品があって、特に彼の長くて少し骨ばった指がしなやかに湯呑を持つ様に、私は何度も釘付けになってしまった。
……こんな綺麗な男の人がいるんだ。
目から鱗が落ちるような気持ちで、そんなことを何度も考えた。