年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
【5】
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せわしなかったセミナー通いを辞めてしまったせいか、最近の私はなんだかぼんやりしている。

家で本を読んだり映画を見たりしているけれど、どれもあまり頭に入ってこない。
結局私はこれからどうすればいいんだろうと、心が迷子になってしまっているみたいだ。

あと二週間で幸景さんが夏季休暇に入る。そうしたら一緒にノルウェーへバカンスに行く予定だ。
日常を離れれば少しは心がスッキリするかもしれないと期待しているけれど……今の私が無気力なことに変わりはない。

「……虚しいな」

すっかり昼間の定位置になったソファーで、膝を抱えたままゴロンと横になる。
今日もリビングはピカピカだ。私じゃなく、他人の手によって。

しばらく横になったままの態勢で考えていたけれど、どんどん自己嫌悪に陥りそうになってガバッと体を起こした。

「駄目駄目、こんなの!」

ただでさえ現状、頼りない妻なのに、明るさまで失ったらおしまいだ。
気持ちを切り替えようと、私はソファーから立ち上がると外出する準備をした。
家に引きこもっているから、気持ちが沈んできてしまうのだ。せっかく夏なんだし、明るい太陽の下に出よう。

……とはいうもののどこへ出かけようと、ドレッサーの前で着替えた自分の姿を見て考えた。
買い物も特に見たいものも買いたいものもないし、エステや美容院って気分でもない。映画館はひとりで行くのは危ないからと禁じられているし、……美術館でも行こうかな。

そう考えたとき、ハッとあるものを思い出して私はクローゼットからひとつのバッグを取り出した。
バッグにしまったまま忘れていた、池戸さんからもらったお詫びの無料券。
幾つかの封筒の中から適当にひとつ受け取ったけどなんの無料券だったんだろうと思って、取り出した封筒を開ける。中から出てきたチケットには『植物園 特別優待券』と書かれていた。

「植物園……」

そういえば、去年に幸景さんとデートで行ったきり植物園にしばらく行っていない。
あの緑に囲まれた空気感を思い出すと、胸がワクワクとした。決まりだ、今日のお出掛けは植物園に行こう。

チケットをくれた池戸さんに心の中で感謝をして、私は帽子をかぶり日傘を手に取ると、さっきより少し晴れた気持ちで玄関を出た。
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