年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
あまりのショックで、帰りはどうやって家まで戻ったのかあまり覚えていない。
イロハモミジの苗木は買わなかった。植物を愛でる余裕なんて、なかった。
炎天下の植物園を歩き回って汗もかいたけれど、シャワーを浴びる気力が起きない。
帰宅した私は着替えもせずにぼんやりとしたまま、いつものようのリビングのソファーに凭れかかるように座っていた。
……夫婦って、なんだろう。
あれからずっと、その言葉が頭の中を巡っている。
お互い愛し合って、信頼し合って。共に一生を生きる、この世で唯一の伴侶。それが夫婦。
ならば私たちは? 愛し合ってはいると思う。けれどそこに信頼はなかった。……ううん、幸景さんの私に対する気持ちは愛じゃなかったのかもしれない。
ただ私を可愛がりたくて。オモチャやペットと同じ、彼の所有物みたいなものだったのかも。
ひとりの人間として私を見てくれていたなら、秘密で監視なんてしない。勝手に行動や人間関係を探って、誰かと会うことを勝手に阻もうなんてしない。
私はペットと同じ。綺麗な部屋に放り込まれて餌と綺麗な首輪を与えられて、ただ彼好みの愛想を振りまくのが仕事。
外に出かけるときはリードがついている。ボディーガード兼監視というリードが。
考えれば考えるほど憂鬱な気分になって落ち込んでいく。
幸景さんのために立派な妻になりたいと思っていた自分が滑稽だ。彼はそんなこと望んでいない。ただ彼の掌の上で盲目的に彼だけを見て、のほほんと笑っていることが、この結婚の正解だったんだ。
もうこれから幸景さんとどうやって暮らしていけばいいのかすらわからない。
これからの長い人生、彼のペットのように生きていくぐらいならこの結婚をなかったことにした方がいいのかと一瞬頭によぎった。――けれど。
「……それだけは、嫌……っ」
掠れる声で呟いて、涙が落ちた。
どんな暮らしをしたって、幸景さんと離れることだけは嫌だ。たとえ愛し方が間違っていたとしても、私は彼を嫌いになることなんかできない。
『璃音』と呼ぶときの愛おし気な眼差しも、低くて柔らかい声も。温かくて大きな手も。色々なことを教えてくれるときの、ゆったりとした口調も。いつだって穏やかなところも。私が怒ったときに眉尻を下げて笑う顔も。ご飯を食べるときの綺麗な手つきも。時々窓辺で物思いにふけっている横顔も。夜にだけ見せる蠱惑的な瞳も。
みんな、みんな、好きなんだもの。世界で一番愛しているんだもの。
幸景さんと一緒なら、どこでどんな暮らしをしたって構わないと思っている。例え言葉の通じない異国へ行ったって、万が一住むところを失うようなことがあったって、幸景さんと一緒ならば大丈夫だと、結婚を決めたときに思った。
けれど、だからこそ――彼に信用されていなかったことがつらい。
お互いを信じる心さえあればどんな苦境だって乗り越えられると思うのに、肝心なその心がないのだから。