年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
そうやっていったいどれだけの時間落ち込んでいただろう。
すっかり日が沈み部屋の中は真っ暗になったというのに、私は明かりもつけずずっと同じ体勢のまま悲嘆に暮れていた。

時間の経過に気がついたのは、「ただいま」という幸景さんの声が聞こえたときだった。

お出迎えしなくちゃと思うのに、心が重すぎて動けない。それに、どんな顔をして何を言えばいいのかもわからない。

ためらいながら淡い緊張を抱いていると、「璃音?」という声と共にリビングのドアが開いた。

「どうした……? 具合でも悪いのか」

部屋の明かりがつき、ソファーで力なく項垂れている私のもとへ幸景さんが足早にやって来る。声には怯えにも似た不安が滲んでいて、本気で心配しているのが伝わった。

「吐き気や頭痛は? 水分はいつ摂った? ああ、無理に喋らなくていい。今、水を取ってくる」

あまりにも私がぐったりとしているから、幸景さんは熱中症だとでも思ったのだろうか。
踵を返しキッチンへ水を取りにいこうとした彼の袖を、私はそっと掴んで止めた。

「大丈夫です。……具合が悪いんじゃないの」

心配をかけまいとして言ったけれど、声が震える。
そんな私を見て幸景さんはソファーの前にしゃがみこむと、手を伸ばしておでこや頬に触れてきた。

「……熱はないみたいだな。けれど、顔色が悪い。病院へ行こう。今、車を回させるから待ってなさい」

「違うの。体調が悪いんじゃありません」

「けど……。心配だ。だるいとか眠気が強いとかでも疾患の可能性はある。やはり病院に行くべきだよ。大丈夫、僕がついてる。怖くないから」

純粋に私を心配してくれるその優しさが、今は痛い。
私を所有物のように監視していた残酷な彼と、真摯に心配してくれる優しい彼。どちらも同じ幸景さんで、その事実が私の頭と心を混乱させる。

「……どうして……?」

胸が苦しくて切なくて、抑えきれない感情が涙になって溢れ出してしまった。
幸景さんのスーツの袖を握りしめたまま、私は情けない泣き顔で彼をまっすぐに見つめた。

「どうして私のことを疑ったんですか……? 神様の前で誓った私の愛は、幸景さんにとって監視をつけるほど信じられないものだったんですか?」

打ち明けた私の言葉に、幸景さんが目を瞠る。彼らしくない動揺が、私の言葉が間違いや勘違いではないことを物語っていた。
それでも彼は私から目を逸らすことはなく、口を噤んだまま見つめ返す。

堰を切った私の涙は止まることがなく、ポロポロと輪郭を滑り落ちていった。
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