年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
「私はあなたのなんなんですか? 家事もさせてもらえず、自由にしていいと言われながら監視されて、コソコソと調べられて、勝手に人間関係を制限されて……。私はそんなに頼りなくて、信じられない存在ですか? リードをつけられた愛玩動物と何が違うの? 私は……私は、あなたの妻として認められたくて必死だったのに……!」
整理をつけたはずの気持ちまでもが、口から零れていく。
悔しくて、虚しくて仕方なかった。悩んで、もがいて、落ち込んで、立ち直って。それらの全てが独りよがりだったみたいで。
泣きすぎて言葉が紡げなくなった私は、ただしゃくり上げながら手で涙をぬぐう。こんなみっともない姿は見せたくなかったのに。
幸景さんはショックを受けたように呆然としていたけれど、やがて眉根を寄せ顔をしかめると「違う……」と言いかけてから口を噤み、私をゆっくりと、けれど力強く抱きしめた。
「ごめん」
苦しそうな呟きが、耳もとで聞こえた。
「きみを信じなかったんじゃない。僕はただ……」
そこまで言って、幸景さんは一度言葉を切る。それから緊張したように息を呑む音が聞こえて、「……怖かったんだ……」と、吐息のようにか細い声で告げた。
「……怖い?」
その言葉の意味がわからなくて私は目をしばたたくと、抱きしめてくる体を押し返して彼の腕から抜け出した。
幸景さんはとても困惑した表情をしていた。まるで感情がすべて顔に出ているみたいだ。
いつだって大人然としている彼の、こんなに無防備な顔は見たことがない。
「怖いって……何がですか?」
視界を霞ませる涙を手の甲で拭って、幸景さんの顔をよく見る。そんな私の眼差しに耐えられないかのように、幸景さんは口もとを手で覆うと目を伏せた。
「認められたくて必死だったのは、僕も同じだ。きみに一度だって結婚を後悔して欲しくなくて、僕が夫であることを恥じて欲しくなくて……必死だった」
想像もしなかった彼の本音を打ち明けられて、私は唖然とする。
幸景さんが、必死だった? いつだって余裕があって紳士的で大人な幸景さんが?
「ど、どうしてですか? 逆ならまだしも、私が幸景さんを恥じることなんてあるわけないじゃないですか。私、世界で一番幸景さんを尊敬しているんですよ」
こんなに最高の夫を前に、恥じたり後悔したりする要素がどこにあるというのだろうか。
けれど幸景さんは思いっきり眉を顰めると、口角を上げて自嘲気味に笑って言った。
「ひと回りも年上のくせに、まだ学生だったきみと強引に婚約した男をかい?」
「そんな……」
『強引なんかじゃない。私も幸景さんと結婚したかったのだから」と言いかけた私の台詞を、幸景さんが強い語調で遮る。
「璃音。僕はね、きみが思っているほど立派な人間じゃないんだよ。いい年をしてきみのことが好きで好きで仕方なくて、きみのことになると見境がなく、そのくせ臆病なみっともない男なんだ。結婚を決めたときにも周囲に嫌というほど言われたよ。ひと回りも年下でまだ社会に出たこともない子供を手籠めにするみたいで可哀想だと。それでも僕はきみを手に入れた。きみが社会に出て、他の男と出会う機会を得る前に。」
初めて、幸景さんの胸の内を知った。結婚前にそんな反対の声があったことも。
私はひたすら驚いて目を瞠る。涙が止まっていたことにも気づかないほどに。
整理をつけたはずの気持ちまでもが、口から零れていく。
悔しくて、虚しくて仕方なかった。悩んで、もがいて、落ち込んで、立ち直って。それらの全てが独りよがりだったみたいで。
泣きすぎて言葉が紡げなくなった私は、ただしゃくり上げながら手で涙をぬぐう。こんなみっともない姿は見せたくなかったのに。
幸景さんはショックを受けたように呆然としていたけれど、やがて眉根を寄せ顔をしかめると「違う……」と言いかけてから口を噤み、私をゆっくりと、けれど力強く抱きしめた。
「ごめん」
苦しそうな呟きが、耳もとで聞こえた。
「きみを信じなかったんじゃない。僕はただ……」
そこまで言って、幸景さんは一度言葉を切る。それから緊張したように息を呑む音が聞こえて、「……怖かったんだ……」と、吐息のようにか細い声で告げた。
「……怖い?」
その言葉の意味がわからなくて私は目をしばたたくと、抱きしめてくる体を押し返して彼の腕から抜け出した。
幸景さんはとても困惑した表情をしていた。まるで感情がすべて顔に出ているみたいだ。
いつだって大人然としている彼の、こんなに無防備な顔は見たことがない。
「怖いって……何がですか?」
視界を霞ませる涙を手の甲で拭って、幸景さんの顔をよく見る。そんな私の眼差しに耐えられないかのように、幸景さんは口もとを手で覆うと目を伏せた。
「認められたくて必死だったのは、僕も同じだ。きみに一度だって結婚を後悔して欲しくなくて、僕が夫であることを恥じて欲しくなくて……必死だった」
想像もしなかった彼の本音を打ち明けられて、私は唖然とする。
幸景さんが、必死だった? いつだって余裕があって紳士的で大人な幸景さんが?
「ど、どうしてですか? 逆ならまだしも、私が幸景さんを恥じることなんてあるわけないじゃないですか。私、世界で一番幸景さんを尊敬しているんですよ」
こんなに最高の夫を前に、恥じたり後悔したりする要素がどこにあるというのだろうか。
けれど幸景さんは思いっきり眉を顰めると、口角を上げて自嘲気味に笑って言った。
「ひと回りも年上のくせに、まだ学生だったきみと強引に婚約した男をかい?」
「そんな……」
『強引なんかじゃない。私も幸景さんと結婚したかったのだから」と言いかけた私の台詞を、幸景さんが強い語調で遮る。
「璃音。僕はね、きみが思っているほど立派な人間じゃないんだよ。いい年をしてきみのことが好きで好きで仕方なくて、きみのことになると見境がなく、そのくせ臆病なみっともない男なんだ。結婚を決めたときにも周囲に嫌というほど言われたよ。ひと回りも年下でまだ社会に出たこともない子供を手籠めにするみたいで可哀想だと。それでも僕はきみを手に入れた。きみが社会に出て、他の男と出会う機会を得る前に。」
初めて、幸景さんの胸の内を知った。結婚前にそんな反対の声があったことも。
私はひたすら驚いて目を瞠る。涙が止まっていたことにも気づかないほどに。