年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
「あのときはきみにもみっともない姿を見せてしまったね。……反省してる」
その言葉で、あの日の深夜にひとりでリビングで項垂れていた幸景さんの姿が脳裏に甦った。
……彼がどれほど不安で、そして傷ついていたか。今ならばわかる。
あのとき声をかければよかったと、遅すぎる後悔が湧いた。声をかけて、『あなたを愛してます』と抱きしめたならば、幸景さんは不安に苛まれずに済んだのかもしれないのに。
「きみの不貞を疑ったわけじゃない。けど、あの男がなんの目的できみに近づいた人物なのか、僕は知る必要があった。あの男が金銭目的できみに近づいたのか、それとも……きみそのものが目的だったのか。どちらにしろ僕は夫としてきみを守る義務がある。だから、調べさせてもらったよ」
『そんなことをするくらいなら直接聞いてくれればよかったのに』と頭によぎった台詞は戯言だ。幸景さんを問えなくしたのは私なのだから。
池戸さんのことを聞かれたときに、私は一度嘘をついた。そのことに気づいていた幸景さんがもう一度同じことを尋ねられるはずがない。
もし私だったら信じている人に同じ嘘を二回つかれたら、酷く傷ついて立ち直れなくなるだろう。
幸景さんに大きな不安を抱かせ、疑心暗鬼にさせたのはすべて私が原因だ。
「出過ぎた真似だとはわかっている。その結果、こんなにきみを傷つけたことを悪かったとも思っている。ごめん。けど僕は……不安だったんだ。誰かがきみを傷つけることも、きみを奪おうとすることも、僕には耐えがたい。そんな男が璃音のそばにいるのなら、僕は全力で排除するしかないんだ」
最後に幸景さんは苦しそうに、そう打ち明けた。
私は握られていた手をそっとほどくと、彼の頬を包むように撫でる。苦悩に染まっていた瞳が驚きの色に染まったあと、切なげに和らいだ。
「……ごめんなさい、幸景さん。ごめんなさい。私……幸景さんは大人だからって、なんでも知っててなんでもできて、私のことなんかで悩んだり困ったりすることなんてない大人だと思ってたから……。だからちっとも気づいてなかった。ううん、わかろうとさえしてなかった。幸景さんが一生懸命愛してくれてたことに、今まで気づかなくてごめんなさい。勝手なことばかりして、知らない間にあなたを不安にさせて……ごめんなさい」
止まっていた涙が、再び零れた。
幸景さんの心の傷を知って、ようやく私は彼の本当の心に触れられた気がする。
不安にさせ続けてきたことを心苦しく思う気持ちと、本当の彼と初めて向き合えた喜びとが胸の中で混ざり合って、どうしようもなく胸を締めつけた。
「愛してます、幸景さん。愛してます。この結婚を後悔なんて絶対にしない。神様に誓ったんです、幸景さんだけを一生愛するって。だから大丈夫です、私は何があってもあなたから離れません」
どれほど愛しているか、伝えたいのに上手に伝えられなくてもどかしかった。
けれど幸景さんは頬に添えた私の手に自分の手を重ねると、とても優しくて幸せそうな笑みを浮かべ、「うん」と応えた。
「幸景さん……」
その微笑みに、私の心にも安堵が広がる。
言葉で全部を伝えることは不可能だけれど、それでも今、想いは通じあった気がした。この手のぬくもりと共に。
その言葉で、あの日の深夜にひとりでリビングで項垂れていた幸景さんの姿が脳裏に甦った。
……彼がどれほど不安で、そして傷ついていたか。今ならばわかる。
あのとき声をかければよかったと、遅すぎる後悔が湧いた。声をかけて、『あなたを愛してます』と抱きしめたならば、幸景さんは不安に苛まれずに済んだのかもしれないのに。
「きみの不貞を疑ったわけじゃない。けど、あの男がなんの目的できみに近づいた人物なのか、僕は知る必要があった。あの男が金銭目的できみに近づいたのか、それとも……きみそのものが目的だったのか。どちらにしろ僕は夫としてきみを守る義務がある。だから、調べさせてもらったよ」
『そんなことをするくらいなら直接聞いてくれればよかったのに』と頭によぎった台詞は戯言だ。幸景さんを問えなくしたのは私なのだから。
池戸さんのことを聞かれたときに、私は一度嘘をついた。そのことに気づいていた幸景さんがもう一度同じことを尋ねられるはずがない。
もし私だったら信じている人に同じ嘘を二回つかれたら、酷く傷ついて立ち直れなくなるだろう。
幸景さんに大きな不安を抱かせ、疑心暗鬼にさせたのはすべて私が原因だ。
「出過ぎた真似だとはわかっている。その結果、こんなにきみを傷つけたことを悪かったとも思っている。ごめん。けど僕は……不安だったんだ。誰かがきみを傷つけることも、きみを奪おうとすることも、僕には耐えがたい。そんな男が璃音のそばにいるのなら、僕は全力で排除するしかないんだ」
最後に幸景さんは苦しそうに、そう打ち明けた。
私は握られていた手をそっとほどくと、彼の頬を包むように撫でる。苦悩に染まっていた瞳が驚きの色に染まったあと、切なげに和らいだ。
「……ごめんなさい、幸景さん。ごめんなさい。私……幸景さんは大人だからって、なんでも知っててなんでもできて、私のことなんかで悩んだり困ったりすることなんてない大人だと思ってたから……。だからちっとも気づいてなかった。ううん、わかろうとさえしてなかった。幸景さんが一生懸命愛してくれてたことに、今まで気づかなくてごめんなさい。勝手なことばかりして、知らない間にあなたを不安にさせて……ごめんなさい」
止まっていた涙が、再び零れた。
幸景さんの心の傷を知って、ようやく私は彼の本当の心に触れられた気がする。
不安にさせ続けてきたことを心苦しく思う気持ちと、本当の彼と初めて向き合えた喜びとが胸の中で混ざり合って、どうしようもなく胸を締めつけた。
「愛してます、幸景さん。愛してます。この結婚を後悔なんて絶対にしない。神様に誓ったんです、幸景さんだけを一生愛するって。だから大丈夫です、私は何があってもあなたから離れません」
どれほど愛しているか、伝えたいのに上手に伝えられなくてもどかしかった。
けれど幸景さんは頬に添えた私の手に自分の手を重ねると、とても優しくて幸せそうな笑みを浮かべ、「うん」と応えた。
「幸景さん……」
その微笑みに、私の心にも安堵が広がる。
言葉で全部を伝えることは不可能だけれど、それでも今、想いは通じあった気がした。この手のぬくもりと共に。