偉大なる使用人


「坊ちゃん。」
「その呼び方はやめてって言ってるでしょ。」

そんなに困ったような顔、しないで英司。

「何故、音様に婚約パーティーだとお伝えにならなかったのですか?」

その言葉に、ギュッと目を瞑る。

「言おうとした、言おうとしたよ。」

正式に君と僕の婚約が決まったらしいって、
実は今日はその為に誘ったんだって。
一緒に父に挨拶してくれないかって。

「でも、学校で一緒に過ごしてても彼女は何も知らなそうだった。今日でハッキリしたよ。婚約の話がある事すら知らなかったんだ。」

落ち込む僕に、
そっとホットミルクを用意してくれた英司。

「黙ったまま強行突破、でございますか。」

そんな嫌味言わないでよ。

「仕方ないじゃない…。僕に何が出来る訳でもないんだ。奏多さん、何て言って彼女を連れて来たんだろう。」
「彼も音様には、婚約の事をお伝えにはならなかったようですね。」

そう、そうなんだ。

「そこがまた不思議なんだよ。どうして?言ったらパーティに来ないから?でも、使用人としてそれはダメでしょう?」
「えぇ。旦那様から預かった重要事項を伝えない、と言うのは少しおかしいですね。」

そうでしょ?

「私共には、きちんと挨拶して回っていたのですがね。」
「奏多さんの方が彼女を結婚させたい理由があるのかな…」

だって、まるで。
周りから固めているようにしか見えない。

「…そうかもしれませんね。理由は分かりかねますが。」

そう言って、英司は肩を竦めた。

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