偉大なる使用人
勢いよく入ったはずのパパの部屋を出る時は、
私の背中はこれ以上ない程丸くなっていた。
「パパ、どうして勝手に私の未来を決めるの?」
「何の事だい?音。」
「光希との婚約。まさか私に何も知らせずにこのまま進めるなんて事ないでしょ?」
パパは私の言葉に目を丸くした。
「何も知らなかっただなんて、そんなはずは無いだろう?パパは奏多に一任していたよ。」
「…奏多に?」
「奏多からもちゃんと報告を受けているんだ。お前も承諾したんだろう?」
は…?
「さすがだよ。天野川家の息子さんなら安心だ。奏多も連れて何回も食事をしたんだ。光希君もお前も、互いに好感を持っていると聞いて、これ以上ない相手だと思ったんだが。何が不満なんだい?」
言われた事を頭で整理してる間にも
パパの言葉は止まらなかった。
「こんな話を、奏多がお前に黙っていたと?じゃあパパが奏多から聞いていた話は嘘だったと言う事かい?」
なんとなく、
それに頷くと奏多の立場が危ない気がして
何も言えなかった。
本当は全部嘘なのに。
奏多は私に婚約の話なんて一度もした事が無かったし、もちろん私だって頷くはずがないのに。
何で、何で。
「本当にもう、決まった事なの…?」
「光希君に不満があるなら、仕方ないが別の家系を探すしか無いが…。喧嘩でもしたのかい?」
そういう事じゃない!
でもこれ以上話しても、きっと何も理解してくれない。
私は奏多の事が好きなんだって、
今までそれだけはパパには絶対に言えなかったから。
だって、そんな事言ったら彼はきっと辞めさせられちゃう。
本人には言えても、
パパにだけは言えなかったんだよ。
あぁ、でも…。
どうせ奏多は私の事が好きじゃないんだったな。
私の中で勝手に盛り上がってて、
卒業したら絶対に奏多と結婚してやる!って。
反対されても駆け落ちすればいいって。
18歳になれば仕事だって出来る!って。
でも…その可能性だって、昨日粉々に打ち砕かれたばかりだったな。
「気持ちに応える事ができない」
奏多はそう言ったんだもん。
私が駆け落ちなんて提案しても、
あの彼が頷いてくれるとは思えない。
「仕方がない人ですね」
きっと、それで終わり。