偉大なる使用人
それならいっその事、誰とも結婚せずに
お嬢様と使用人の関係でいいから
奏多と一生共に過ごす事はできないのかな。
せめて、どこかに嫁ぐ事だけはしたくない。
「はぁ…。どうすれば…」
「どうしましたか?」
盛大な溜息の原因の中心にいるこの男。
部屋に戻ると、奏多が掃除をしていた。
「何から言えばいいかしら…。そうね、まずは私のパパの、貴方への信頼の大きさを舐めてたわ。」
「大変有り難いお言葉ですね。」
「褒めてないわよ!ねぇ、婚約の話を私がいつ承諾したかしら。」
「あれはいつの事だったかな…ええと、」
「とぼけないで!私は承諾なんかした覚えないわよ。」
うーん、と眉を潜め考えるそぶりをする奏多は本当にふざけているとしか思えない。
「ねぇ、奏多。どうしても私を結婚させたいみたいね。私に言えば反対して暴れ回る事もよくわかってる。だから、引き返せないところまで私に黙って事を進めたんでしょう?」
「ええ。その通りですよ。」
ひとまず、ようやく整理のついた頭で
考えがまとまった所を話すと
彼はすんなりと頷いた。
「はぁ…。どうしてそんなに焦ったように周到に話を進めるのか、聞いてもいいかしら。」
「感謝して下さい、音様。卒業する手前で急いで探しては、いくら良家とは言え、光希様程のルックスをお持ちの方は余ってませんよ、きっと。」
誰が誰に感謝しろと…?
「結婚しない、っていう選択は、」
「ありません。」
相変わらず早いなぁ。
「昨晩も言ったでしょう。それがしきたり、なのです。貴女は良家の方と結婚する。残酷な事を言うようですが、産まれた時から決まっている運命のようなものです。」
運命のようなもの…。
それを言われても、光希を運命の相手だとは私にはどうしても思えない。
運命の相手って、誰かに決められるものじゃないでしょう?
「抵抗したいならしてみて下さい。どう暴れても、私が必ず運命の道へ貴女を連れ戻します。」
にっこりと笑った奏多を見て、
私の中に、一つの考えが浮かんだ。