偉大なる使用人
「彩、今年も浴衣を着るの?」
私のベッドに横たわり、
雑誌を見る彩を見てると
私達もその辺の女の子と何も変わらないのになぁ、と感傷に浸りたくなる。
「勿論着るわよ。ジンに頼んでる。お姉ちゃんは?光希さんと行くんでしょう?」
「えぇ。私も奏多に用意させてるわ。今年は藍色にしようと思うの。」
「あら、お姉ちゃんにしては渋い色を選んだのね。」
私の心の中の色よ。
そう言いたい気持ちをグッと抑えた。
「もうこんな時間?着替えないと。あ、ほら。ジンの声が聞こえる。」
彩様~、と叫ぶジンに
部屋から顔を出しここよ、と知らせる。
「ここでしたか。彩様、貴女はまだ柄選びが済んでいないのですから。このままでは目玉のショーに間に合いませんよ。」
「はいはい。」
立ち上がって素直に腕を引かれる彩。
部屋から出る直前、ジンが立ち止まり振り返る。
「音様。今年の浴衣は大人っぽいと、奏多が嬉しそうに申しておりました。見るのが非常に楽しみだ、と。」
「それは嬉しいわね。嬉しすぎて胸がトキメクわ。」
嫌味のように返すと、
いつものように困った笑顔で去って行った。
入れ替わりのように入ってくる奏多と着替えの係の者。
手には私の浴衣一式が揃っている。
この男は、いつもタイミングがいい。
「さて。外におりますので、着付けが済んだら知らせて下さい。帯は私が。」
着替え係にそう告げると、颯爽と出て行った。
いつもそうだ。
最後の仕上げは、彼がする。
髪の毛のセットだって
制服のリボン結びだって
浴衣の帯だって。
彼に仕上げてもらわないと私も気が引き締まらない。
「音様、大人になられましたね。濃いお色がよくお似合いで。」
そう言ってくれる係に、
もう高等部も2年目だからと愛想笑いを返した。