偉大なる使用人

「花の形がいいわ。」
「いいえ、蝶にしましょう。この色に花は合いません。」

はぁ、と溜息をつくも
この男のセンスは侮れないから結局は任せる。

グッと帯を締められて、くるりと奏多に向き合う。
彼は満足気に頷いた。


「美しい。」


彼にそう言われるなら、
花でも蝶でもどちらでもいいや。

「貴方も来るんでしょう?今年のショーは海外のサーカス団とコラボするみたいで、」
「今年は私は留守番です。ジンが向かうので、屋敷を任されました。」

肩を上げて、拗ねてみせる奏多。

「どうして!?貴方も私に付いて来なさいよ。」
「光希様がいらっしゃるでしょう。英司さんも一緒なので、心配なさらず。」

奏多の言葉に、下唇を噛む。
こうなる事も分かってた。
こうやって貴方は少しずつ、距離を置くんだ。

使用人の中にも位置付けがあるらしい。

結婚すれば男主の使用人の方がメインとなる、
奏多はそれも教えてくれた。

『そうは言いましても私はこれからも音様の使用人という事に変わりはありませんよ。』

安心させるようにそう言った彼の言葉を
私はどれ程心の支えにしているだろう。

「そう、分かったわ。」

素直に頷くと、奏多は笑った。

「何かありましたら飛んで行きます。一際美しいので、すぐに見つけられるでしょう。」

お世辞だろうと、それを本心のように言える彼に感心するし憎いと思う。

「…ハグの練習をさせて。」

練習?と首を傾げる彼に
有無を言わせず抱き着いた。

「光希の前の、練習よ。」
「…では、私も光希様になりきりましょう。」

理由を付けてゆるゆる、と回される腕。

…光希はこんなに強く私を抱き締めるだろうか。

婚約を承諾した今でも、
私は貴方の事が大好きだ。

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