偉大なる使用人


「綺麗だね。」
「そうだね。」

光希と並んで、1番いい席でショーを見る。

招待客で埋め尽くされたこの会場は
世間で言う夏祭りみたいなもの。

町の小さなお祭りにだって参加できない私は、それより何倍も煌びやかなこの空間しか知らない。

童話に出てくるような物事は全部経験しているはずなのに、路面で売られているりんご飴の味を私は知らない。

毎年浴衣を選んで、奏多と一緒に見ていたのに今隣にいるのは光希。

会った瞬間からずっと綺麗綺麗と褒めてくれる彼に、私はありがとうと何回言っただろう。

奏多の「美しい」には何も返せなかったのに。

「あっ、ちょっと待って。」

ショーが終わって、立ち上がり歩き出すと
慣れない下駄に足が痛んだ。

「かな…」
「音様。お座りください。」
「…ありがとう、英司。」

癖で彼の名前を呼びそうになる。
異変に気付き、すぐに飛んできてくれるのは
今では英司の役目となっているのに。

「大丈夫?背中に乗る?」
「何言ってるの。大丈夫よ。」

本気でそう言ってくれる彼に、
思わず笑いが出た。
おんぶって何歳だと思ってるのよ。

そのまま天野川家の車に乗る。

「このまま帰る?どこか寄りたい場所は?」

人混みの中をはぐれないように手を繋いで歩きたい。
当たりそうもないクジを引いてみたい。

噂で聞いたわ。
草の上に座って一緒に花火を見て、
大きな音で誤魔化しながら告白をするんだって。

「…幸せね。」
「ん?」

そんな普通の事が、羨ましくて仕方がない。

「……ないわ。帰りましょう。」

練習の成果を発揮できなくてごめんね。
ハグどころか、手もまだ繋げない。

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