偉大なる使用人
「髪、伸びたね。」
図書館で勉強をしていると、
分厚い本を何冊か抱えた光希が隣に腰をおろす。
彼から、秋の匂いがする。
「そうね。ずっと伸ばしてるから、結婚式が終われば切るつもりよ。」
「僕は長い方が好きだけどな。」
「そこは、どっちでも綺麗だよって言うの。」
「どっちでも、綺麗だよ。」
控えめで従順な彼が、焦ったようにそう言い直すのが可愛い。
「奏多が言うの。髪を乾かすのが大変だから早く切って下さいって。あの男はデリカシーも何もないわ。」
「面白いよね、奏多さん。」
「どこが。」
パラパラ、と本を捲りながらふふっと笑いを噛み殺す光希。
「この前もそうだった。」
「なに?」
「私が居ない時、音様は何かご迷惑をかけてはおりませんか、って。」
「そんな事聞いてるの?」
「ふふ、うん。」
そんなに心配ならいつでも何処へでも
貴方もついてくればいいでしょう。
私の前で言うと、こう言われる事が分かっているから内緒で光希に聞くんだな。
「もう殆ど家の中でしか付いてないんでしょう?」
そうよ。
去年の夏頃から少しずつ距離を置き始めた彼は
今では私と共に屋敷から出る事はない。
「もうすぐ彼もあの屋敷を出て一緒に天野川家に来るのだから、色々と引き継ぐ事があるんじゃないかしら。」
「そうだね。英司とも仲良くやってくれてるみたいだし、とってもいい人。奏多さん。」
そうでしょう。
彼は、とってもいい人。
いい使用人。