偉大なる使用人


「太りますよ。」

高等部最後の冬休み。

寒すぎて何処にも出掛ける気にならなくて
光希からの誘いもほとんど断り、
温かい部屋のベッドでゴロゴロしていると
掃除にやってきた奏多が呆れたようにそう言う。

「いいのよ、太っても。」
「ウエディングドレスのサイズを変更する羽目にならなければ良いのですが。」

窓の淵を布巾でなぞりながら
淡々と嫌味を言う。

「ねぇ、奏多。」
「なんでしょう。」
「ドレスが入らなかったら、結婚式は中止になるかしら。」

手を止めて、怪訝にこちらを振り返る。

「…せいぜい、延期になる位ではないでしょうか。」
「あら、残念。」
「…貴女は本当に、仕方のない人ですね。まだそんな事を言っているのですか。」
「結婚に承諾しただけ有難いと思ってほしいわ。心の中を隠して。」

溜息を吐いてまた作業に戻った奏多は、私の言葉を無視する。

「昔。雪だるま、作ったわね。」

最初は奏多と名付けた雪だるま。
覚えてる?

「懐かしいわ。あの頃に戻りたい。」
「戻ってもまた、同じ未来が待っているだけですよ。」
「…そうね。じゃあこれからもきっと、そうなのね。」
「音様、」
「ねぇ、奏多。」

眉を下げた彼に、
必死に私を遠ざける彼に、
言いたい事がある。

「好き。私はずっとずっと、貴方が好き。
私の全ての原動力は、その気持ちだけよ。」

だから。
これから私がしようとしてる事、怒らないで。

どう足掻いたって過去も今も未来も変わらないと言うのなら、何を言ったって何をしたって別に構わないでしょう?


式が近付くにつれ、気付いた事があるの。


三年かけてそれが確信に変わっていくのを実感すると
あの時の私の決断は間違ってなかったと、そう思う。

私が想いを伝える度に、揺れる貴方の瞳を見ればわかるのよ。

きっと、貴方も私を愛してる。

そうでしょう?
奏多。

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