偉大なる使用人
移り変わる四季を3回見送って、
ようやく私は卒業した。
この日まで耐えた。
耐えて耐えて、耐えたんだ。
誰がどう見たって立派に光希の妻でしょう?
ウエディングドレスを身に纏い、
扉の前に立つ私は。
「音様、本当におめでとうございます!」
「ありがとう。」
扉を開けられる直前、着替え担当にそう言われ
心の中で「今まで。」と付け加えた。
台無しになるの、わかってる。
光希にだって恥をかかせるし
私はとんでもない無礼者だと、
今の時代じゃなかったら切腹に処されていたかもしれない。
でも、仕方ないじゃない。
開けた扉の中に居る彼の目に、
祝福とは違う何かが混ざっている事に私はとっくに気付いてしまったのだから。
バージンロードをゆっくりと歩きながら、
視線は奏多に釘付けだった。
道の先にいる光希じゃなく、
口をキツく結んで、控えめに拍手をする奏多に。
”本当にこれでいいの?”
誰にも分からないような口パクでも、
きっと貴方は読み取れるでしょ?
ハッと目を見開いた後、一瞬。
一瞬だけど、小さく首を振った。
やっぱりそうだ。
やっぱりそうでしょう。
それが、貴方の本心なんでしょう。
「ごめんなさい、パパ。」
親不孝者でごめんなさい。
許してとは言わない。
許されない事だと言うことは、誰よりもわかってるつもりよ。
パパに絡めた腕を解いた瞬間、彼の元へ走った。
私から手を引かれた時、
少しだけ感じた抵抗は、すぐに無くなった。
「音!」
慌てる光希とざわつく周りの様子が、スローモーションに見える。
靴とベールを脱ぎ捨てながら、
「普通、逆でしょう!」
息を切らし、そう叫ぶ私に
彼は何も言わなかった。
何も言わずに一緒に走った。