偉大なる使用人


初めて、街中の小さなカフェに入った。
初めて、インスタントの珈琲を飲んだ。
初めて、一つのケーキを二人で分け合った。

「音、口についてる。」

随分と穏やかな表情に戻った彼の手が
私の口元を拭って、自然と笑みが零れる。

「仕事を探すわ。」
「仕事?」
「二人とも無職なのよ。カードだってきっとすぐに止められる。一文無しだわ。」
「…ふふ、そうだね。」

きっと大丈夫よ。
貴方なら何でもこなせるでしょ?
私の使用人だったんだから。

「音、何かしたい事は?」

突然言われても、やりたい事が多すぎて困るな。

うーん…
夏になったらお祭りにも行きたいし、
花火を並んで見てみたい。
秋は食欲が進むでしょう?
二人で一緒にちょっと太るの。

あれこれ考えてると、再び口を開く奏多。

「今。今すぐ出来る事だよ。」

そうか、今すぐか。
それならやっぱり、手を繋いで歩きたい。
何の目的もないまま街をブラブラするの。

そう伝えると、「わかった。」って貴方は笑った。

私の希望通り、手を繋いで街を歩いた。

路面店の変な雑貨を見て笑って、
奏多がふいに被ったキャップがあまりに似合っていたから買って、
足が疲れたらまたカフェで休憩した。

本当に幸せ。
幸せすぎて、夢なんじゃないかと思う位。

飛び込みの宿に到着すると、
また初めて経験する硬さのベッドに二人で寝転んだ。

「眠い?」
「ちょっと。」

そうやって奏多に頭を撫でられると、いつも眠くなるんだよ。

「明日は何しようか、奏多。」
「んー…そうだねぇ…。」
「まぁ、何でもいいや。奏多とだったら。」

本当に、何でもいい。
彼と一緒に居れれば、それでいいのだから。

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