偉大なる使用人
「神様がくれたご褒美だと思う事にする。」
眠気で下がってくる瞼を必死に開けて、
彼の声に耳を傾ける。
「ん…ご褒美?」
「そう。僕にとって、これは人生のご褒美。」
可愛いな。
いつもトゲトゲしてた彼がそんな事言ってくれるなんて。
「三年耐えたって言ったね。」
「そう…耐えたわ、三年…」
あぁ、ダメだ。
瞼が重い。
「僕は、八年。」
八年…?
「使用人になった時から数えると、八年。
聞かなくていいよ、独り言だから。」
声を発さなくなった私に、そう呟いた。
「八年間、幸せだった。年々美しくなる君が、眩しかった。」
「汚れを知らない君を見ていると、僕まで心が洗われた気分になった。」
奏多の言葉が、段々遠くなる。
嬉しい言葉たち。
あぁ、寝ちゃダメなのに。
明日また聞かせてよね、そのお話…
「君の成長が本当に嬉しかった。」
「世間の人達が経験する事を、君は何も知らなかったね。」
「でも、君が一番知らない事を教えてあげる。」
「…貴女が思ってる以上に、僕は貴女を愛しているんですよ。」
あ、また敬語…
そう思った瞬間に意識を手放した。
「私と貴女は一番近くて、一番遠い。」
奏多の最後の言葉は、私には届かない。
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ーーー
ーー
次に目を開いた時は、私は見慣れた天井の下にいた。
勢い良く身体を起こし、辺りを見渡す。
ドクドク、と鼓動が速まった。
『1度寝たら朝まで起きませんからね。』
昔言われたそのセリフを瞬間的に思い出して、
喉がカラカラに乾く。
なんで私はこの家に戻っているの?
だって昨日結婚式を抜け出して、奏多と…
「奏多…?どこ?」
いつもタイミングの良いはずの彼の姿が見えないのは、何故?