偉大なる使用人
「ごめんね、ジン。」
一週間程、何もする気になれなくて知恵熱まで出て。
奏多の代わりに甲斐甲斐しく世話をしてくれるジンに謝った。
「いいえ。音様は昔から、考え過ぎると本当に熱まで出ちゃいますからね。」
「それもだけど…」
「奏多の事ですか?」
優しい顔でタオルを変えてくれるジンは
私の言いたい事を分かってくれているよう。
「そう…。私の身勝手な行動のせいで、貴方の大事な同僚を失わせた。」
そう言うと、ジンはまた優しく笑った。
「音様が無事に戻って来られて、私も彩様も幸せです。きっと奏多もこれが一番正しいと思っているはずです。」
何で皆、怒らないんだろう。
どうしてそんなに優しいんだろう。
「ただ…。」
「ただ?」
何かを言いかけて、口を噤んだジン。
困ったようにニッコリ笑った。
「…いえ。」
「何?教えて、ジン。」
「奏多にとって、常に貴女は眩しい存在でしたから。私は…そんなお二人を、心密かに応援しておりました。使用人としてこんな事を言ってはいけませんが…やはり身内には甘くなりますね。」
ジンの言葉に、また涙がこめかみを這う。
「あぁっ!泣かないで下さい。これじゃまるで私が泣かせたみたいじゃないですか。」
「…ジンが泣かせたのよ。」
「ふふ…そうですね。」
涙を拭ってくれる奏多が側にいなくて、
ボロボロに崩れそうな私を支えてくれる人が
私の周りには沢山いる。
でも。
あまりにも恵まれた環境にいながら、
やっぱり考えるのは、恋しいのは奏多だけだった。
私にとっても、貴方は眩しい存在だったのよ。
ずっと一緒に居たい。
…ずっと一緒に、居たかった。