偉大なる使用人


彩様を着替え担当に任せて控え室を出ると、見間違いかと思う顔が前方に見えて慌てて駆け寄った。

僕が彼に会いに行ってから一ヶ月ぶりに見る奏多と、確か天野川家の光希様の…英司さん!

何で二人でここに?

「奏多!」

僕に気付いた二人が立ち止まる。
慌ててお辞儀をすると、英司さんも深々と頭を下げてくれた。

彼にはおめでとうございますって、言うべきかな……
いや、それより。

「奏多、見に来たの!?」
「んー…見に来たって言うか、」
「では、私は一足先に花嫁を拝見して参ります。奏多さん、五分後に。」
「ありがとう、英司さん。」

またお辞儀をして、彼は僕が来た道へ歩いて行った。
この先は彩様か音様の控え室しかないけれど…彼が行くのは当然音様の部屋だろう。

案の定、音様の着替え担当と入れ違いで部屋に入って行った英司。

何が何だかさっぱりわからない。


「おめでたい日だね。」


頭がぐちゃぐちゃの僕を見兼ねたのか、
奏多が口を開いた。

おめでたいって…

「おめでたい、けど。」

おめでたいけど。
おめでたいけどさ。

「英司さんが、とても粋な人なんだ。」
「英司さんが?」

僕の頭をポン、と叩いて笑った。
ジン、泣きそうって。

『音様は決断されました。貴方や世間が一番望む結果になります。ここで貴方を戻さなければ、私は一生後悔するでしょう。そして、貴方も。』

英司さんの言葉を教えてくれた奏多。

「これで彼女の側で、堂々と。死ぬまで使える事ができるんだ。使用人として、これ以上の幸せがどこにある?」

僕の頭を撫で続けながら心底嬉しそうにそう言う。

何で、僕が泣いてるんだ。

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