偉大なる使用人
「お久ぶりです、音様。」
恋しくて恋しくて仕方なかった彼が
目の前に現れてニッコリ笑って、
一瞬息が止まったかと思った。
メイクが崩れるのも気にせず、
ドレスが乱れるのも気にせず、
ただその胸に思い切り抱きついた。
「奏多…っ、かなたぁ~~…」
「…はい。はい。」
トントンと背中を撫でられ、懐かしいその匂いに目眩がした。
「戻ってきて、くれたの?」
嗚咽混じりにそう尋ねるのが精一杯だ。
理由なんて本当はどうでもいい。
彼がここにいるだけで、充分だ。
「貴女が少しだけ大人になったようなので、戻って来ました。」
奏多が笑って、身体が揺れる。
「英司が、多少の事は、してくれるって…そう言ってて、」
「ははっ…。落ち着いて下さい。ゆっくり息を吸って、吐いて。」
彼の言う通りにスー、ハー、と呼吸を整えたけど、改めて顔を見るとまた涙が止まらなかった。
「貴女は…本当に仕方のない人ですね。今日は誰の結婚式ですか?誰のせいで延期になった結婚式でしょうね。」
懐かしい小言は、私を泣かせようとしているとしか思えない。
「奏多…ぜんぜん変わって、ないね。」
「たかが二ヶ月で変わるわけないでしょう。」
「ふふっ…」
彼の言葉が敬語に戻ってるのが寂しいなんて
そんな事を思う暇もない位に嬉しかった。
たかが二ヶ月なんて、そんな事ない。
その二ヶ月で私は一生の決断をしたし、
貴方の有り難みも心底分かったんだよ。
「ねぇ奏多、」
「なんでしょう。」
「私のこと、嫌いになってない?」
あの言葉さえ聞けたら、私も頑張って運命に従うから。
その笑った顔が好きなんだ。
「世界中の誰よりも愛してます。…使用人として。」
ほら、何も問題ない。
愛する者同士、一生側に居よう。
私達。