偉大なる使用人
英司が、わざとらしく置いて行った日記の束を手に取る。
「貴方が、書いたんでしょう?」
恐らく一番古い日記のページをめくった。
「お恥ずかしい。私も未熟だったもので。いちいちメモを取らないと覚えられない事ばかりでした。」
「…途中からはそうじゃないみたいだけど?」
私の言葉に、くしゃり、と笑った。
確かに最初は重要事項だけが書いてあるけど
途中からは本当にただの私の成長日記だ。
「”人参は、すり潰したら食べられる”…貴方、本当に私の事を子供扱いしてたのね。」
「事実を書いたまでです。」
読んでいくうちに、その文字さえ愛おしく感じた。
奏多の少し丸い、柔らかくて綺麗な字。
私の事だけを書いた絵本のようだ。
「”また美しくなる季節がやってきた。” そんな風に思っていてくれたのね。まるで詩人だわ。」
「音様の事だと書いてありますか?」
「ここまで私の事しか書いてないのに、どうして突然他人が出てくるのよ。」
「ははっ。そうですね。…さぁ、照れ臭いのでそれはもう私に返してもらいましょう。」
まだまだ読みたかったけど、
きっと奏多の大事な日記なんだろう。
英司だって、今日までいくら頼んでも見せてくれなかった。
こんな物がこの世に存在すると分かっただけでも、幸せだ。
「また、一緒にショーを見に行ける?」
「えぇ。今年はご一緒させて頂きましょう。」
「どこかに出掛ける時だって、ついて来てくれる?」
「勿論。私は音様の使用人ですから。」
嬉しくて嬉しくて、泣きながらまた抱きついた。