偉大なる使用人
扉の前まで奏多にエスコートしてもらい、
仕上げにベールを被せてもらう。
いつもいつも、そうだった。
奏多に仕上げてもらわないと、
私は気が引き締まらないんだ。
「お美しい。」
貴方の言葉に、私は笑った。
ちゃんと笑えた。
「ありがとう。」
背筋を伸ばして前を向く。
『ただ側にいる。それだけで満たされる人間も世の中には存在するのだと思います。』
『今世の運命は今世に従って、また来世には来世の運命がきっとあるはずだから。』
目を瞑ってあの日を思い出す。
奏多に、沢山の初めてを教えてもらった。
たった一日だったけど、今までの人生で経験出来なかった事をした。
私も彼も口に出す事はもうきっとない、あの一日。
行きたかったお祭りや見たかった花火、
やってみたかったデート。
それは心に閉まって、生きていくから。
貴方が側に居れば、私は生きていける。
「ご結婚、おめでとうございます。」
奏多の言葉と同時に扉が開かれる。
この先に待っているのは
とても贅沢で居心地の良い、
貴方が築いてくれた私の素晴らしい未来だ。
「ありがとう。」
私はもう一度笑って、
眩しい光に向かって歩き出した。
fin…