偉大なる使用人
今日も奏多に制服のリボンを結んでもらって、車まで続く庭を歩く。
わぁ…もう桜が散りそうだ。
ついこの前植え替えられたはずなのに。
「ねぇ、奏多。私がこうして毎日学校へ通う事に意味はあるのかしら?」
「意味、とは?」
後ろから答える声に、立ち止まって振り返る。
「だから、毎日勉強する意味よ。どうせ卒業したら私は奏多と結婚するのに。」
私の言葉にパチクリ、と瞬きをする。
「さて、それは誰が決めたのでしょう?」
「私よ!私がそう決めてるの。」
「それはそれは。光栄です。」
ほぼ棒読みで流す奏多に食ってかかる。
「光栄なら勉強をする必要なんてないじゃない。わ、ちょっと。」
くるりと向きを変えられて
グイグイ、と背中を押されて進む。
「ちょ…っと、まだ話は終わって」
「生憎、私は勉強の出来ない女性とは結婚したくありませんね。」
「頭が良い人となら結婚するの?」
「では、行ってらっしゃい。」
話の途中で車に押し込まれ、ドアを閉められる。
「ちょっと奏多!」
ニコリ、と手を振る奏多と
走り出す車。
段々と遠ざかる彼を思いっきり睨むと、
ふざけて怖がるようなジェスチャーをして頭を下げた。
「はぁ~…。何なの、あの男は。主にあんな態度をとっていいと思う?」
思わず運転手に愚痴を零す。
くく、と笑った彼は
「さて…どうでしょう。」
それだけ言って会話を終わらせてしまった。
何なんだ、どいつもこいつも。
音様音様と呼ぶ割には、
全く私の意見なんか聞いてくれない。
はぁ~っと溜息を吐いて、座席に背を預けた。
ずっとそうだ。
奏多はずっとそう。
伝えても伝えても全く相手にしてくれない。
普通逆じゃない?
使用人の方がバタバタと駆けずり回るものじゃないだろうか。
「一体、私のどこに不満があるって言うの?」
私の大きい独り言にも
運転手はただ、笑うだけだった。