偉大なる使用人
「つまらない。」
「え?」
「つまらない。」
ランチにフレンチを食べながら
隣に座る光希に話し掛ける。
豪華すぎる校内も、
毎日同じように上品な学食も、
完璧なマナーで食事をする隣のこの美しい光希でさえも。
何でだろう。
凄く凄くつまらない。
「何か嫌な事あった?」
機嫌を伺うように尋ねてくるその態度も。
「別にそうじゃないの。ただ、毎日がつまらないと思って。」
「まだ高等部に慣れないからじゃない?」
「そうじゃない。」
ナイフとフォークを置いて
ごめん気にしないで、と立ち上がった。
その腕を掴まれる。
「音、」
「光希が悪い訳じゃないの。ただ機嫌が悪いだけ。申し訳なかったわ。」
そっと手を解いて、歩き出すと
慌てた様子で後をついてきた。
「気晴らしに家のパーティに来る?今晩、もう散る間際の桜を見ながら食事をするっていう、」
「そういうのがつまらないって言ってるの。」
何がパーティ。
そんな物、全然楽しくない。
そんな所に行く暇があれば、家で奏多と大嫌いな数学の勉強をしている方がよっぽどいい。
「そう…」
でも、
あからさまに落ち込んだ光希に
少し言い過ぎたと反省する。
「光希が嫌って事じゃなくて、パーティとかそういうの、苦手なの。ごめんね。」
「ううん、いいよ。僕の方こそごめん。」
「光希は謝らないで。」
ピシャリと言う。
だって、誰がどう見たって悪いのは私だ。
中等部の頃は顔と名前くらいしか知らなかった彼は、高等部になってから新たに仲良くしてくれる大事な友人なのだから。
いつも控えめで、少し頼り気のない彼だけど
何故か私と仲良くしてくれる。
その事に本当はちゃんと感謝しないといけないよね。
「行こう、光希。」
「…うん!」
そう声を掛けると少しだけ表情の明るくなった彼と、午後の授業へ一緒に向かった。