偉大なる使用人
目の前の豪勢な食事にたまに手を付けながら
ぼぅっと桜を眺める。
綺麗だな。
嫌だ嫌だと言いつつも、美しいものは美しい。
「音、ちゃんと食べてる?」
ガーデンの中心部にあるバーカウンターから
新しい飲み物を自ら持ってきてくれた光希。
優しい。
この子はいつも優しいな。
昼間、私が言った言葉を忘れた訳じゃないだろうに。
「自分で動いたら使用人の仕事がなくなるわよ。ほら、英司が困ってる。」
チラリ、と見ると
慌てたようにぺこりと頭を下げた。
「いいんだ。英司はああ見えてこういうパーティの時は忙しいし。奏多さんもそうでしょ?」
「彼はいつもああよ。」
少し離れた場所にいる奏多は、
私の使用人という立場で付いてきたはずなのに。
どちらかと言えば光希の家の者達に挨拶をして回っている。
やれやれ、と食事に意識を戻した。
「彼は賢そうね。」
「そう。英司はとっても優しくて賢いんだ。」
「確かに優しそう。羨ましいわ。」
「奏多さんは?」
「あれはもう、見ての通りよ。私に見向きもしない。本当いい気晴らしね。」
「…音、実は今日のパーティー、」
光希の言葉を遮って
ヒュウっと風を切る音を感じ、
次の瞬間に夜空に咲く花火。
「びっ、くりした…。花火?いちいちスケールが大きいのね。でもまだちょっと、早すぎるんじゃない?」
「…そうかも。あ、音。大丈夫?」
びっくりした拍子で少しだけ水を零してしまった。
慌てて奏多、と口を開きかけると
彼はもう既にハンカチを持って側に来ていた。
「音様。じっとしていて下さい。余計な水滴が分散してしまいます。」
私のドレスに掛かってしまった水滴を
ポンポン、と丁寧に拭いていく。
離れた場所に居たはずなのに、こういう時は本当に早いわよね。
あぁ~水で良かった。
…きっと、彼の事だからシミ抜きも持っているのだろうけど。