偉大なる使用人
「坊ちゃん。音様。旦那様がお呼びでございます。」
英司がそっと近付いてきて私達をそっと立ち上がらせる。
「英司、その呼び方は変えてと言ってるでしょ?」
「申し訳ございません、光希様。さぁ。」
見事に綺麗になった私のドレスを確認して、
奏多からも同じように促された。
なになに、何なの?
光希から差し出された手に
渋々自分の手を乗せ、彼の父親の元へとエスコートされる。
私達が揃ってやって来た事に気付いた彼の父親が、嬉しそうに立ち上がり
パチパチ、と拍手をした。
私の頭の中にはまたもや、はてなマークが沢山。
「そちらの家とも順調に話が進んで良かった。婚約パーティは盛大にさせて頂くよ。」
…は?
婚約?
意味が分からず、奏多を振り返る。
彼は無表情で、固く口を閉ざしてただ真っ直ぐ前を見つめていた。
私の方を一度も、見ない。
嘘でしょ?
冗談でしょ?
口を開きかけると、光希の握る手の力が
一瞬だけギュッと強くなった。
何も読み取れないその表情を見て、
思わず口を噤む。
「卒業と同時に結婚だ。二人とも今は学生生活を心ゆくまで楽しみなさい。」
隣の彼が一礼したのにつられて
私もお辞儀をしたけど、
心の中はふつふつと煮えたぎっていた。
「貴方、学校では気晴らしにでもって言ったわよね?どういうつもり?最初からこのつもりだったのね。」
光希に向かって文句を言いながら迎えの車まで向かう。
後ろをついてくる奏多にも言いたい事は山程あるけど、それは後でいい。
「違うんだ。聞いて、本当に違う。気晴らしに誘ったつもりだったのに今日こんな話をされるとは、」
はぁ?
ピタ、と足を止める。
「そもそも婚約って何?」
「…本当に何も、聞いてないの?」