さよならは響かない
午後十時半、きみの部屋、秘密。
─── …
「─好きなんだよ、」
消えちゃいそうな小さな声が、絞り出すようにそう、言葉を紡いだ。
くしゃ、と目をつぶって皺ができる。
泣きそうな顔、わたしも同じ顔してる。
「…あのね、わたしも、」
「わかってる、」
好きなの、
そう、口にしようとした言葉は遮られた。
視線が絡んで、それから。
自分の手のひらを、ぐっと握りしめた。
昔よりも大きくなったこぶしが、震えていた。
「─わかってるから、ミオに話したんだよ」
「、シキ、」
「…なあ、もうしんどいよ」
シキの部屋。
青と白で完成されている、青はシキの好きな色。
この部屋に閉じ込められちゃいたかった。
そうしたら、何も見なくて済むのにね。
隣の部屋から笑い声が聞こえる。
壁一枚で仕切られた部屋の温度は、測らなくたって全然違うのがまるわかりだった。
楽しそうで幸せそうな、ふたりの姿を見れば、
わたしたちの気持ちは誰にも言えない、
伝えることだって、不可能だ。
< 1 / 84 >