さよならは響かない
どちらから手放して、どちらから手を伸ばすのか。
そんなことは別にどうだっていいのだ。
わたしが離れたかったら私が言う、けれどもう一度手元に戻したくなるのはわたしで、
シキが離れたかったらそう言ってくる、けれどもう一度元に戻ろうとするのもシキだ。
梨可には、言えないことがある。
誰にも言わないのがわたしたちの唯一の約束だった。
こんな関係を誰かに話したところで、受け入れてもらえないことはわかっている。
そのせいでわたしたちは、『秘密』にずっと縛られている。
どうして付き合っているのか、どうして別れるのか、どうしてまたよりを戻すのか。
そのきっかけの話を、梨可はしつこく聞いてきたりはしなかった。
わたしはそれに、ずっと甘えている。
初めて私たちの関係が「恋人」になったのはいつだっただろうか。
幼馴染から恋人になることを、あのころのわたしたちは昇格だと思っていた。
でもそれは違った。
はじめから私たちの目的は「恋人」になることじゃなかったのだ。
そんなのは合意の上だったのも、
それがあの中学2年生の秋の始まりだったことも覚えている。