さよならは響かない
前方の人だまりからふらっと現れた、ネクタイの色が違うその人を見上げれば、「あ、やっぱりみいだ」なんて優しく笑って、こちらに歩いてくる。
「常盤せんぱい、」
「めずらしいね、購買なんて」
「友達の付き添いです」
常盤先輩はわたしの横にいた梨可のほうを向いて、こんにちは、なんて会釈をする。
梨可はあんまりいい顔をせずに頭だけを下げていた。
「澪央、わたし、行ってくる」
「わかった、ここで待ってるね」
その場から逃げるように少し落ち着いた購買に向かう梨可を見送れば、センパイは困ったような顔をして笑っていた。
「あの子、俺のことやっぱり嫌いなのかな」
「あー…、そういうわけじゃない、と思います」
「なんか気を遣わせちゃったかな」
───澪央も蜂屋も、やってることは同じようなものだからね。
わたしが、シキの真似事を始めたころだった。
一度だけ、梨可にそう言われたことがある。
それには否定なんてできるわけもなく、ごめん、と返せば、それからはもう何も言ってこなくなった。
梨可の言っていることは正しい。
そして、その忠告に従えないわたしは、梨可以外のクラスメイトの女子たちにあんまりよく思われていないこともわかっている。
わたしも、わたしが嫌いだ。