さよならは響かない




佐久にいに聞こえないくらいの小さな声でそう話す先輩に、驚きを隠せないまま耳を傾けていれば佐久にいは不思議そうにこっちを見ていた。



「俺が一年のとき佐久センパイと仲良くて、家にも遊びに来てるし、蜂屋とも遊んだこともある」

「…そう、だったんですか」

「ごめん、隠してたわけじゃないけど、なんか言いづらくて」



先輩はちっともシキのはなしをわたしに振ってくることをしなかった。
それなのにどこかシキのことをわかっているような感じだったことも、いまさらつじつまが合うと思ってしまう。

じゃあ今日も、すれ違っている二人は、本当は顔見知りで。


先輩の顔を一切見なかったシキは、わかって手渡しを引き留めてくれない、ということだ。




「…なか、いんですか、」

「今はそうでもないかな、あったら睨まれるくらいだし」

「なになに、おまえ司輝と揉めたの?」


困ったように笑う常盤先輩を見た佐久にいはそこに食いついてきたけれど、
そう言ってからわたしに視線をずらして、何かを納得するようにそういうことか、とつぶやいた。



「もめてないっすよ、ただちょっと、いまの蜂屋司輝は仲良くなれない」

「ふーん、おまえがいまの澪央の彼氏?」

「いや、残念ながら違うんですよね」



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