さよならは響かない
ベッドの下ににもたれかかるように座る。
そのまま佐久にいの机に置かれた大学の教科書をぼうっと見つめていれば、ココアとコーヒーの入ったカップをもって佐久にいが入ってくる。
「なにをじっとみてるの」
「いや、難しそうな教科書だなあと思って」
「うーん、難しいけど、大学は楽しいよ」
「まだ、考えたくないなあ」
それでも受験は迫ってきていることを知っている。
現に、バッグの中身が空っぽだった常盤先輩は受験生なのだ。あんなに何も持って帰らないで、果たして先輩は大丈夫なのだろうか。
あと1年半で、シキとは離れ離れになるかもしれない。
大学まで一緒なんて、そんなこと無理なことはわかっている。
それまでにこの関係をどうにかしないといけないと思うと、やっぱりずっと高校生のままでいたいと思う。
「まだ、いいと思うよ、高2なんて一番楽しい時期だし」
「そうだよね」
「どう、澪央。学校楽しい?」
はい、と手渡されたマグカップに、ちょっと色の濃いココアが入っている。
大さじ3杯よりちょっと多くしたい私のココアのことをわかりきっている色だ。
「たのしいよ、」
「司輝も、楽しそう?」
まったく弟想いなお兄ちゃんだ。
本人は学校のはなしをちっともしてくれないんだと不満を零しながら私のほうを見る。
「…楽しんでると、思うよ」