さよならは響かない
「──ずっと、」
「うん、」
「ずっと、シキといれたらいいのに」
わたしは、ばかだった。
そんなわがまま、通用しないし、
それでも、シキもわたしもひとりぼっちなら、ふたりでいればいいって、ただ純粋に、そう思っていたの。
「──じゃあ、離れなきゃいいよ」
「…え、?」
「ずっと一緒に、いればいい」
わたしとシキを縛り付ける呪文が、落ちてしまえば。
もうわたしは、シキから離れられない。
──シキも、わたしを手放さない。
「不幸せは、ふたりで分ければいいよ」
黙ったまんま、視線だけが絡んでいた。
その瞳の真ん中に、わたしだけが映っていた。
「…ミオは兄貴が好きで、俺は真央が好きで、それでもいいよ」
「…し、き」
「──それでも俺は、ミオとなら一緒にいたいって思うよ」
わたしたちはまだ、何も知らなかった。
不幸せを、ふたりで分け合うのが、簡単じゃないってことを。
優しく頬に触れる手のひらの熱が、
シキの苦しさとわたしの苦しさを重ねるように。
ぎこちなく近づいてくるシキに、わたしは黙って目を閉じた。
───はじめて重なった唇は、
悲しくて苦しい、不幸せのキスだった。