さよならは響かない









「『嘘でも俺はミオの彼氏だろ』、って言ってたね」



今でも階段で人の声が響いているのが苦手だ。

わたしを置いてかけていく足音も、
やばいよね、早く逃げよう、その声が響いていたことも、自分が落ちた音が先生に届くほど大きかったことも。



佐久にいは泣きそうなわたしにそっと近づいて、頭をポンポンと撫でた。


「ごめん、思い出したくなかったよな、」


ふるふると首を横に振った。

お姉ちゃんは女の子たちとの争いでわたしが階段から突き落とされたことを知っている。
女のいざこざはめんどくさいことをわかっているからだ。

お母さんとお父さんに自分で足を踏み間違えたと言ったら、信じていないような顔をして「どじだなあ」って抱きしめてくれた。

佐久にいにも言っていないはずなのに、何となく気づいてしまっていたのはお姉ちゃんがしばらく私を心配していたことと、あの日のシキとの会話を聞いてしまっていたからだろうか。



「……シキとわたしは、いまでも、恋人だよ」

「…え、?」

「いまでも、嘘の、恋人なの」


『嘘』と自分で口にするのが、こんなにも悲しいことは知らなかった。
胸が締め付けられるように痛くて、こんな関係を続けている自分が、嫌になる。


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