さよならは響かない
あの日、シキがわたしに怒ってくれた日。
初めて無理矢理抱きしめてくれた日。
わたしはシキのことが好きだと思った。
おかしいでしょう、シキのハグは慰めと罪悪感でしかないのに。
わたしはそのぬくもりを、離したくないと思ってしまったんだ。
嘘の恋人のままでも、シキはわたしを今までよりもっと大切にしてくれるようになった。
わたしを一人にさせないし、どんな時でもそばにいてくれる。
本当の恋人のようだった。
この時間がずっと続けばいいと思っていた。
気づけば佐久にいがお姉ちゃんといくら二人で幸せそうにしていても苦しくなんてならなかったし、反対に、それを見てシキが苦しんでいるのかと思うほうが苦しかった。
『──シキ、苦しいよ』
『…うん、俺も』
抱きしめてくれる、手のひらをぎゅっと握りしめてくれる。
それから優しく、キスをする。
シキがくれる慰めと罪悪感に、わたしはずっと依存している。
シキは今でもあの日のことを自分のせいにして、何度離れようとしてもその後悔を思い出して私のところに戻ってくる。
「…わかんない、んだけど」
「…シキは、わたしのこと好きじゃないよ」
佐久にいの瞳の真ん中が揺れている気がした。
意味が分からないと、わたしの前にしゃがみこんで、視線を合わせる。
「…でもわたしは、シキのことが、好きなの」