さよならは響かない
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あれから。
午後十時半、シキの部屋。
わたしたちふたりだけの秘密。
あの部屋で重なるのは唇だけで、
わたしの苦しいと、シキの苦しいはふたりで分け合っていた。
唇に伝わる熱が、
冷めないままなのは、きみのこころがいまでもかなわない恋に苦しめられているからなんでしょう。
最初はただの恋人だった。
その間に、純粋な恋心はなかった。
それでもわたしたちは本物の恋人のように隣にいた。
でもそれは、幼馴染の延長ごとのようにも思えた。
お姉ちゃんと佐久にいは、相変わらず幸せそうだった。
わたしたちは二人の幸せを心から願っていた。
ふたりの仲睦まじい姿を、精いっぱいに笑って見過ごしていた。
ふたりから、逃げるようにあの部屋に向かう。
耳元でつぶやかれるその時間の言いつけを守って。
すべてを言い訳にして、
わたしたちはお互いを求めていた。
いつから、変わってしまったのだろう。
もうわたしは、シキの気持ちを理解できない。
わたしを疵付けるのは、
お姉ちゃんでも、シキのお兄ちゃんでもない。
シキなのだ。